『海燕ホテル・ブルー』は面白かった

今週は、昨年10月17日に若松孝二監督が亡くなって1周年になることから、下高井戸シネマで特集が行われている。

若松孝二作品は数が多く、またスプラッシュ上映されることも多いので、知らないうちに上映が終わっているものもある。

寺島しのぶ主演の『千年の愉楽』は、中上健次の原作で、と書けばわかるように関西の漁村の話だが、期待したほど面白くなかった。

俗に関東の都市にあって関西にないのは、災害対策室で、関東になく関西にあるのが同和対策事業だ、と言われたほど、関西での被差別問題の根は深く、私にはよく分からないので、コメントしない。

                             

だが、『海燕ホテル・ブルー』は、非常に若松らしくて面白かった。

場所は不明だが、雨の日に、男二人が現金輸送車強盗をしようとする。

一人が盛んに携帯で叫んでいて、何かよく聞こえなかったが、本当は来る予定だった仲間が来なかったらしい。

地曳豪は、刑務所に入れられ、7年をすごして出所し、もう一人の男を訪ねると、リサイクル店をやっている。

そこから、地曳は、現場に来ず、裏切ったもう一人の男を訪ねると、伊豆大島で店をやっているという。

「ああ、いつもの復讐劇か」と思う。

若松孝二の映画、特に初期の作品で多いのが復讐劇なのである。もっとも、若松のみならず、加藤泰の『懲役18年』など、1960年代のアクション映画には復讐劇が多いのだが。

大島で、男は、ホテルとバーをやっていて、そこには謎の女・片山瞳がいて、となるが、こここからは、相当に喜劇的な展開になる。

特に、地曳を「兄貴」と慕う井浦新が来てからが、非常に面白く、井浦の演技が笑わせてくれる。

片山の肉体の魅力に次第に骨抜きになる地曳に対して、井浦が「兄貴が情けない」と嘆く表情が良い。

井浦は、背が高いだけの役者と思い込んでいたが、よく見ると非常に上手い俳優である。

さて、例によって「天才バカボン」のようにデタラメな警官が出てきて人を殺したり、その警官も最後には女に殺されて、山麓に皆埋められてしまう。

そして、女は観音像の中に消えて行くというもので、言うことは明確で、人間、とりわけて男の愚かさである。

往復は世田谷線で、車両が昔の玉電ではなく、新型になっていた。

下高井戸シネマ

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