『孤独の人』

ラピュタの「スクリプター白鳥あかね特集」、1957年1月公開の西河克己監督作品。
原作は当時の皇太子殿下(今上天皇陛下)のご学友だった藤島泰介の小説で、大ベストセラーとなったもの。

学習院高校に皇太子が在学していた頃の話、一種の学園ものなので、ラクビー、テニス、修学旅行も出てくる。
西河克己は、「ゲテモノ、キワモノ」と言っているが、非常に真面目に撮っている。
脚本は、中沢信となっているが、製作の児井英生の初稿を西河が直したものだとのこと。

クライマックスは、小林旭らの悪友が、殿下を連れ出して銀座に行くところで、山手線で銀座に行き街を歩き、バーに入って無事戻ってくる。
大騒動になって学校に戻ってきた時、小林旭は言う。
「殿下に対してわれわれができたのは、こんな小さなことだったのか」
この時期、天皇に対しても開かれた意識が十分にできていたことを表すものだと思う。
こうした国民の感情の上に、皇太子妃として「平民」の正田美智子さんとのご婚姻もあったと言える。
小林旭や津川雅彦は、高校から入った一般の家の学生で、初等科から殿下と一緒だった青山恭二ら旧華族らとの対立が作品の構造になっでている。
津川は、船会社の重役清水将夫の息子だが、義理の叔母月丘夢二と付き合っているが、性的関係は希薄に見えるのは、作品のためだろうか。
西河によれば、日活に銃弾が送られてきて、警察も捜査したとのことだから。

また、小林旭の恋人は芦川いづみで、銀座の店の客として岡田真澄も見え、街頭でからむ不良で柳瀬志郎も出ている。
曖昧だが殿下の恋人役は、稲垣美穂子だが、この時はまだ皇太子は、正田美智子さんにお会いしていず、この年の夏に軽井沢のテニスで会うわけだが、稲垣と美智子さんの感じが似ているのが大変興味深い。

いずれにせよ、上流階級の女性は、このように高貴なものだという意識が面白い。
修学旅行の奈良の旅館の女将が、細川千賀子で、「殿下のお泊りを市会議長にお願いし、そのために離れを新築したので、ここにお泊りいたい」と懇願するのは笑えた。
大坂志郎、新井麗子、武藤章生など、当時の日活俳優の総出演である。
音楽が小津安二郎の斎藤高順だが、冒頭のタイトルには雅楽が流れる。
ラピュタ阿佐ヶ谷

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