『熱狂の仕掛け人』 湯川れい子(小学館)

音楽評論家の湯川れい子さんが、このような本を出していたとは知らなかった。

元は、雑誌『FMファン』に連載されていたものだそうだが、1950年代末から日本の音楽業界におられた方なので、他の類似の本には出ていない珍しい話が満載されている。
戦後のボクシング世界タイトルマッチ、フィリピンのダド・マリノと白井義男の試合の裏話から、ジャズ・ブームの中での地方興業のこと。
さらに、1950年代のまだドルの為替制限があった時代の、キング・コールなどの大物へのギャラの払い方など。
今では想像もできない逸話ばかりで、そのまま戦後史である。
キョードー東京の永島達司から始まり、渡辺美佐、草野昌一、堀威夫、さらに最後の呼び屋と自ら言った横山東洋夫、依田巽など。

一番興味深い話は、エルビス・プレスリーが来日しなかった理由で、それは彼のマネージャーのトム・パーカー大佐がオランダからの違法移民だったからだとのこと。
外国に行くためにはパスポートが必要だが、彼が不法移民がばれるのを恐れて来日しなかったのではないかと言われていたそうだ。
確かにプレスリーは、ハワイには行ったが外国公演はしていない。ハワイは国内である。
プレスリーは、西ドイツに行ったことがあるが、兵役であり、興業ではない。
いろいろと裏の裏があるアメリカの興行界らしい話である。

また、ここには湯川さんは、ナベプロが若手タレント発掘のために組織していた「野獣会」出身の人間と間違われたことも書かれている。
それは、彼女が、野獣会出身の秋元まさみという女性と『モダンジャズ入門』という本を書いたからだという。
その本は、結構面白く、またジャズについて日米のことをよく網羅していた本で、私も暗記するくらいよく読んでいた。

因みに、秋元まさみの原作・主演、新東宝が倒産した直後の大宝という会社の映画で、山際永三監督の『狂熱の果て』があり、以前から見たいと思っているのだが、このフィルムは行方不明のようだ。

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