『サッチャー』

政治家などの著名人は、結構映画化されているが、ここではいきなり晩年のマーガレット・サッチャーが認知症で狂乱の日々をおくっていることが出てくるので少々驚く。


もっとも、これは欧米の偉人伝記ものでは普通のことのようで、テレビだがフランクリン・ルーズベルト大統領の一生を描いた『わが生涯の大統領』も、いきなりフランクリンが年若の愛人の家で死んだところから始まっていた。

サッチャーは、非常に興味深い人間である。イギリスの矛盾そのもののような人間だからだ。
言うまでもなく、彼女はイギリスで最初の女性首相だった。しかも保守党で、貴族などの上流階級の出ではなかった。父親は地方の市長を勤めたこともあるそうだが、食料品店の店主であった。
映画にも何度か出てくる「食料品店の娘」という台詞には、美空ひばりについてよく言われた「魚屋の娘」という感じに近いものがあると思う。
イギリスは日本などよりもはるかに階級社会で、政治家は保守党も労働党も、いわゆるオックス・ブリッジの高学歴の者がほとんどである。
この映画では出てこないが、エリザベス女王はサッチャーがお好きではなかったようで、それは日本の昭和天皇が、田中角栄を好きではなかったことと似ていると思う。
昭和天皇がお好きだったのは、「暗闇の牛」こと前尾繁三郎衆議院議長だったそうだ。

彼女は、ヒース内閣の教育相の時、労働組合の横暴に、あまりにも弱腰のヒース首相に対抗して保守党の党首選に出て、意外にも勝利してしまう。
この辺の彼女の姿に、メリル・ストリープは、姿も台詞も、大変よく似せている。
もともとサッチャーは、よく見ると結構美人で、「私はそれを使った」と彼女は言っているそうだ。

当時のイギリスの労働組合の横暴は相当なものだったようで、強硬姿勢で臨み、小さな政府、規制緩和の彼女の製作は当たり、イギリスの景気も回復する。
だが、以前として人気はそれほどでもなかったのだが、その時起きたのが、アルゼンチンとの戦争、フォークランド戦争である。
この戦争の勝利で彼女の人気は一気に上がり、戦後の首相で最長の11年間を在位することになる。
だが、最後彼女がパリの国際会議に出ている時、保守党の代表戦が行われ、過半数を取れずに辞任することになる。
国内的には、彼女が出した「人頭税」に対する反対だが、世界的に見れば時代の変化の結果である。

それは経済のグローバル化の結果の一つである。
1980年代以降、経済がグローバル化し、多国籍企業が世界中に活動するようになると、皮肉にも規制緩和路線は不能に陥ることになる。
なぜなら、ある国の政府が、企業に対して税制など規制を緩和してあげて、利益を増大させたとしても、企業は自国に再投資するかどうかは不明になったからだ。
むしろ、最大の投資利益を求めて、海外に流失してしまうようになった。
これを自国への愛国心で縛りつけようとするのは、無意味なことである。企業が最大の利益を求めて行動するのは当然のことであり、そうしないと株主から訴えられるからだ。
では、どうしたら良いのか。他国、海外への再投資に廻らない部門の活性化を図れば良いのである。
具体的には、福祉・介護、教育、文化など、自国、地域にしか存在できず、海外に流失することが本旨ではない部門を積極的に拡大するような施策を取ることである。
現在の安倍政権の、構造改革、規制緩和が、そうしたものでないことは明白であり、いずれ問題が顕在化するに違いないだろう。

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