『西銀座駅前』

今村昌平としては、第三作の『果てしなき欲望』を作るために、会社からのお仕着せで作ったという小品だが、なかなか面白い。
もちろん、フランク・永井のヒット曲の映画化で、彼も狂言回しとして何度も出てくる。
冒頭から、曲の1番を、各小節ごとに多くの人にきれぎれに歌わせるというお遊びが出てくる。

主人公は、妻で薬剤師の山岡久乃に尻に引かれている亭主柳沢真一で、彼は優秀な妻のお陰で、店ではなにもすることがなく、一日ぼーつとっしている。
ときどき思い出すのは、戦時中に兵隊として南方の島にいたことで、島の娘との恋を思い出している。

ある夏の日、山岡は子供を連れて、柳沢の友人の獣医西村晃の葉山の別荘に出かけてゆく。
その夜、遊び人の西村は、柳沢に「鬼のいぬ間の命の洗濯」をたきつけ、銀座を飲み歩き、翌日柳沢は、運よく前の店の美人堀恭子とデートすることになる。
実は、それは山岡の指示による監視だったのだが、柳沢の人柄に惚れた堀は、一夜を付き合うことにする。
モーターボートで隅田川を出た二人は、豪雨に会い、海を漂浪した末に、見知らぬ海岸に付く。
一時は「南方の島か」と思うが、なんと葉山で、柳沢は家族と再会になる。
一種の艶笑喜劇だが、さすがによくできていると思うが、会社からは非常に評判が悪かったという。
ここで興味深いのは、主人公柳沢慎一が、南方の島を思っていることで、これは後に今村昌平に『神々の深き欲望』を作らせることになる。
この映画の中心のスタッフ、キャストで多分ご健在なのは、柳沢真一と堀恭子だけだろう。
チャンネルNECO

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