『東京暮色』の踏切

非常に気になる小津安二郎の映画に『東京暮色』がある。高橋治の『絢爛たる影絵』でも酷評された作品だが、そうひどいとは思えない。
ただ、当たらなかったのは事実のようだ。
この映画で気になるのは、最後有馬稲子の秋子が、事故死のような自殺のような死をとげてしまう踏切のことである。
映画の最初の方で、田浦正巳らが住むアパートの相生荘を舐めて見える高架の駅は、東急池上線の石川台駅である。小津の遺作『秋刀魚の味』では、佐田啓二・岡田茉莉子夫妻が住んでいる団地の駅で、岩下志麻と吉田輝雄がここで電車に乗る。

だが、藤原釜足がやっている中華料理屋・珍々軒が、端に見える踏切は、土手のような高架が見え、どうやら人間はその下の踏切を通り、さらに高架の下のトンネルをくぐって行くように見える。
これは明らかに、池上線にはない場所だと思う。
旗の台駅には、トンネル式で高架の下をくぐる構造のところがあったが、そこの地面に線路はない。
非常に不思議な構造の場所である。

しかも、珍々軒の店内になると、遠くで沖縄の「アサドヤユンタ」が聞こえてきて、この店の周辺に沖縄の人がいることを示唆している。
東京の周辺で昔から沖縄の人がいるとなると、横浜市鶴見の海岸エリアである。
ここは、鶴見の旭硝子工場に来たのが始まりで、多くの沖縄の人が戦前から来た。
また、有馬稲子が死ぬ病院のシーンでは、遠く貨物の操車場らしき音が聞こえる。
貨物の操車場があったのは、鶴見の矢向である。
そうなると、あの踏切は、矢向か尻手あたりの貨物線の分岐線の踏切のような気がするのだが、いったいどこで撮影したのだろうか。

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コメント

  1. これは後に分かった。大船駅のすぐ近くで、横須賀線の鎌倉に向かう高架部分のと事なのだ。
    下を走るのはやはり国鉄の線路で車両工場への引き込み線だったが、今は成田への急行等の退避基地への線路になっていて、そこに地上の踏切があるという非常に珍しい構造になっている。
    そこに右側にセットを建て、珍珍軒なる中華料理屋に見せた屋外セットなのである。