『鼬』

シス・カンパニー公演の『鼬』を見た。
これは、1934年昭和9年に上演された真船豊の戯曲で、大変に高い評価を得た作品であり、多くの戯曲集にも名作として載っていた。
演出は、長塚圭史で、彼は前に三好十郎の『冒した者』や『廃墟』を演出しており、日本の過去の名作を手掛けることは多いに評価できる。
だが、この作品はどうだろうか。

昭和初期の会津の農村の宿屋での話で、旧家だったが没落して、老婆の白石加代子が一人で家を守っている。
そこに債権者の農民や縁者の女などが来て、互いに罵りあい、欲望をむき出しにして争う。
そこに身なりの良い女が現れる。
前の家長の愛人で、村を追われた後、諸国を渡り歩き、今では上州で織物工場をやっている女・鈴木京香である。
そこに、南洋島に出稼ぎに行っていた長男・萬三郎の高橋克巳が戻っていた。
富を持って戻ってきたというのは高橋の見栄の嘘で、一文もない彼に、鈴木は大金を貸してやり、借財を清算させる。
再び高橋が、南洋に出稼ぎに行く時、鈴木は、馬医者で、法律に詳しい山本竜二を使って、家屋敷を自分のものにする書類を作成してしまう。
そのことを知り、白石は、あまりのことに卒倒して死んでしまう。

ここに描かれているのは、当時の農村の現実であり、新劇では、労働者と同様「革命の主体」として清く正しいものとされていた農民の実像をリアルに描いたことは衝撃だったと思う。
だが、21世紀の今日から見れば、それは当然のことであり、衝撃はない。
また、鈴木以下のすべての俳優がステージ上を自由に闊歩するのは、どうだろうか。
別に腰を折って歩けとは言わないが、あまりにもスポーティーな姿だった。
因みに、久保田万太郎演出の初演の時、主人公の強欲な女を演じたのは、清川玉枝だったそうだ。
世田谷パブリック・シアター

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