「ああ、これはドストエフスキーか」 東千代之介2本

フィルムセンターで、東千代之介映画を2本見る。
中村錦之助、さらに中村賀津雄と共演の『暴れん坊兄弟』と『嫁さがし千両勝負』である。
前者は山本周五郎原作で、藩主中村錦之助の命令で江戸から藩に派遣されたのが東千代之介と賀津雄の兄弟。
この兄弟は性格が対照的で、兄は昼行燈と言われるのんびりとした全くの善人、弟は何をやっても粗忽で、慌て者。
藩では、いつもの山形勲の城代家老、沢村宗之介らが、御用林を勝手に伐採して、商人に横流ししていて儲けている。
それを人を疑わない東千代之介に感銘を受けた山形らの手下の御用方の田中春男が、関係書類を兄弟に残して死に、それを証拠に兄弟は藩政の不正を匡すことができる。
「カメラが突進する」と言われた澤島忠なので、画面と人物の躍動感が凄い。
だが、この善人は、ドストエフスキーの『白痴』の主人公のムイシュキン公爵だろう。
山本周五郎の好みがよく分かる。
田中春男の10人の子供の長男として住田知仁が出ているが、言うまでもなく風間杜夫である。

次の同じく千代之介主演の『嫁さがし千両勝負』も、この千代之介のキャラクターを生かした話になっていて、ここでは潮来から出て来た善人の武士になっている。
女スリの青山京子、商家の娘で桜町弘子らが出て、北町奉行所の同心が近衛十四郎で、例によって例のごとく悪徳商人らが退治されて無事にエンドマーク。
この翌週に全く同じスタッフ、キャストで『恋しぐれ千両勝負』があるので、この後篇になるのだろう。
脚本は結束信二で、監督はやくざ映画時代でも多数の作品を撮った小沢茂弘だが、結構丁寧に作っていて感心した。
青山京子は、東宝から松竹に行き、東映でも結構時代劇に出ていたが、いまいちだったようだ。
彼女は、調布高校という「お嬢様学校」の出で、芸能界には合わなかったようで、小林旭と結婚して家庭に入ったのは、まことに賢明な選択だったと思う。
フィルムセンター

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