『母のおもかげ』

1959年、大映での清水宏作品で、彼の遺作である。東京の下町、隅田川の河口の町、水上バスの運転手で妻を亡くし、小5の男の子と暮らしているのが根上淳。

彼の伯父で、豆腐屋の親父で病院に出入りしている見明凡太郎が、病院の食堂の未亡人で女の子持ちの淡島千景に、根上との再婚話を持ってくる。

互いに今更と言う二人だが、会うと気が合い、淡島は、女を連れて根上の家に入る。この時代なので、当然仕事は辞めている。

女の子は、すぐに根上になつくが、根上の連れ子の男の子は、淡島になかなか馴染むことができず、「おばさん」と言っている。

彼は、伝書鳩を飼っていて、死んだ母親の形見だと大事にしている。

それを留守中に女の子がいじって小屋から逃がしてしまったことを知り、彼は妹を殴って折檻すると、帰って来た根上に叱られて、家でしてしまう。

                  

彼はなんとか戻ってくるが、一度別居した方が良いと、淡島が女の子を連れて、浅草の叔母さんの家に帰ろうとする時、道端に男の子がいて言う。

「お母さん、行かないで、いつまでも家にいて」

この台詞に泣かない者がいるだろうか。清水は子供を使うのが上手いが、要は演技をさせないことである。

具体的な行動だけにして、台詞は簡潔に言わせて情感を出している。

八百屋の店先でやっている樽に入れたサトイモを板を回して皮を取る、セーターの束を両手に通して、女性が巻いて毛糸の玉を作っていく、

伝書鳩の飼育など、1950年代の庶民の生活の点描が実に懐かしい。

チャンネルNECO

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