『女の中にいる他人』

成瀬映画には珍しく、外国の推理小説が原作の殺人もの。以前、映画館で見た時は途中で出てしまったが、今回は最後まで見る。これほど淡々と、平静に描写する殺人事件作品もない。「火サス」のごとき大げささが全くない、やはりすごい映画である。

小林圭樹が親友三橋達也の妻若林映子と出来ていて、情事中に誤って殺してしまう。最初のシーンが、彼女を殺した直後、喫茶店でビールを黙って飲んでいるところに、三橋が来て始る。勿論、そう分かるのはずっと経ってから。

普通に生活している庶民の内面にどれだけの葛藤やドラマがあるか、をぐいぐいと突きつけて来る。
殺人(と言うより過失致死だが)後も、平然と暮す小林の日常生活が淡々と描かれる。母親長岡輝子、妻新珠三千代。

成瀬は、この映画をセットなしの白バックで撮りたいと言っていたそうだが、何か分かる気もする。

会社の金を横領して失踪した同僚藤木悠のことを社長の十朱久雄が、大変意外だと言うのに対し、小林が実は私はもっとすごいことをしているんですが、という表情をするのが実におかしい。藤木の妻は、当然中北千枝子。
ボンド・ガール若林映子は、独特の女優だったが、今はどうしているのだろうか。

現在、日本最長芸歴の男優・小林桂樹、唯一のベッド・シーンの作品だそうで、撮影当日、小林はパンツ一つの上にガウンを羽織ってスタジオ入りすると、
成瀬は「何、そんなに張り切っているの」と笑ったそうだ。
ベッド・シーンは上半身のみで、下は見えない。

最後の、花火が美しく悲しい。

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