あきらと女性

山本亮と女性について、私の知っていることについて書く。

彼は、正直に言って、福山雅治を暗くしたようなルックスだったので、どんな女性からも好かれた。

われわれのような武骨な連中と飲みに行くとき、最後は店の女性が、必ず彼を好きになって声をかけてくるのである。

「あきらとは飲みに行くのは止そう」とわれわれは言い合ったものである。

だが、彼は女性に対しては必ずしも幸福ではなかったようだ。

世の中は難しいものだと思ったが、その一番は劇団の同学年のSという女性に惚れて振られていたということだった。

私が入る1年前に起きたことである。

Sは、同じ劇団員のMが、

「この劇団には子役もいるのか!」と言ったほどに小柄で童顔だった。

だが、高校時代から男と同棲していたというから、さすがだった。

そしておかしいのは、彼女の高校時代の芝居を私が見ていることだった。

彼女は都立八潮高校の出身で、そこには私の同級生が2人入学していて、演劇部にいたので、文化祭の公演を見に行ったのである。

チェーホフの『記念祭』だったと思うが、それほど面白くなかった。

ただ、私はまったく記憶していないのだが、公演後の感想として、私は「Sが一番上手い」とほめたのだそうなのだ。

たしかに演技は非常に達者で、学生劇団のレベルではなかった。

素人のわれわれをバカにしている感じがあり、女王様ではないが、かなり偉い感じだった。

ある公演で、Sと同学年のHという男が演出したが、彼女は稽古にあまりきちんと出てこなかった。

彼女は、2学年上のSという男しか、演出としては尊敬していなかったので、そうした行動に出ていたのだ。

ある時、稽古に出てこず、その理由は「おばさんが亡くなったので当分休むそうです」と演出助手が演出のHに言った。

するとHは、「またおばさんを殺したのか。何人おばさんがいるんだ!」

しかし、本番ではきちんと役を上手に演じたのだから、誰も文句はなかったのだが。

卒業後は、早稲田小劇場に入ったが、1年くらいで辞めた。早稲田小劇場は、自由舞台出身者の劇団だったので、やはり上手く打ち解けられなかったのだろうと思う。

その後、朝テレビを見ていると彼女が出ている。「ヤング720」というTBSの朝の番組だった。

また、就職して飛行機で出張すると、日本航空の機内放送のナレーションでよく聞いた声が聞こえてきた。

女優としては、やはり小柄だったことで無理があり、次第にそうしたナレーションや声優の仕事に行ったようだ。

               

彼女の芸名は、井上遥で、彼女もだいぶ前の2003年に亡くなっている。

そのとき、われわれは言い合ったものだ。

亡くなって新聞に出るのは、Sくらいなものだろう。

お二人のご冥福をお祈りする。

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