笛木優子は頑張っている

朝日新聞の「世界の扉」という広告紙面を見たら、女優の笛木優子が出ていた。

今は、韓国映画で頑張っていると書かれているが、彼女には日本映画での素晴らしい歴史もあるのだ。

2003年に、このブログに私は次のように書いた。

               

すごい映画である。

共演の奥田英二のマネージャーは「世にも恐ろしいものができてしまった」と言ったそうだが、至言である。原作・脚本笹倉明、監督後藤幸一。主演奥田英二、笛木夕子。
この映画を見ようと思ったのは、笹倉の『映画「新・雪国」始末記』(論創社)を読んだからだ。
ちょっとした行き違いとすけべ根性から、笹倉が自作小説の映画化に参画というより、自らが中心として制作することになる。様々な不手際に巻き込まれ、金を蕩尽して映画は全くヒットせず密やかに公開されて、彼は自己破産寸前にまで行く。
笹倉が、女性スタッフからストーカーと名指しされたり、監督がチーフ助監督、制作担当とケンカして担当が首になったとき、「この映画には全く金がない」と公言したことからスタッフのストになるなど、まさに日々地獄のような制作状態に陥る。
できても上映館はなく、大阪では、1日3人という日もあったそうだ。誰も見ていない上映もあったわけだ。東京では銀座シネパトスでやっていた。本を読んでからは、見ておけばよかったと後悔したが、ビデオになった。

なにしろ笛木がど下手。演劇でひどいのは数多くあるが、映画はいくらでも撮り直しが出来る。完成形であれだとすれば、笛木ほど下手な役者もまず珍しい。撮影に入る前に、奥田は「笛木と二人で篭って演技指導したい」と言い、監督、プロデユーサー、所属事務所が「ボロボロにされる」と皆反対し、それは出来なかったそうだが、これならボロボロにされた方がよかっただろう。

しかし、出来た映画から推測して、この芸者役はとても難しい。暗い過去がありながら、全くうぶに見え、気性は一本気な芸者だそうである。こんな役を新人にやらせる方がどうかしている。

言って見れば溝口健二の『祇園囃子』の若尾文子みたいな役だ。最初にコンタクトしたのは松島菜々子だそうだが、本当に分かっていないね。勿論、即座に断られたそうだが。
しかも、後藤幸一は『正午なり』や『不良少年』でも。映像派的な画面は作っていたが、テンポのない演出だった。田舎芸者(新潟県月岡温泉)を主人公にした娯楽映画など、到底無理なのである。笠原良三脚本、マキノ雅弘監督くらいでないと成立しない映画だっただろう。
共に娯楽映画には素人の、脚本笹倉、監督後藤の時点で失敗は決定されていたのだ。
しかし、一度は見ておくべき大変興味深い作品である。大きなビデオ屋にはある。

TSUTAYAにはおいてあるので、ぜひ見てほしい。

この時の悪夢のような体験から立ち直った彼女は本当に素晴らしいと思う。

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