新劇映画2本 『警視庁物語・ウラ付け捜査』『悪女』

今や「新劇」も死語なりつつあり、俳優座、民芸、文学座の他にも、俳優小劇場、青年座、新人会、青俳等もあった。

今も昔の名でご健在なのは、青年座だけで、青俳は解散、俳優小劇場と新人会は、それぞれ俳小、朋友として名を変えている。

首都圏では、新劇系の劇団は動員力がなく、公的支援の地方公演で生きているそうで、別にそれも悪くないが。

さて、かつての新劇の俳優の演技を見られるのは、昔の地味なリアリズム映画である。

この日の2本もそうで、『警視庁物語・ウラ付け捜査』は俳優座映画、『悪女』は文学座映画だった。

                    

『警視庁物語・ウラ付け捜査』は、脚本長谷川公之、監督佐藤肇で、浅草署留置場で、窃盗犯の井川比佐志がうなされ、2年前に女を殺したことを自白する。

だが、北多摩のオートレース場裏の井戸で発見された遺体は腐乱していて身元が不明で、オクラ入りしたとのことで、井川が本当の犯人なのか、捜査班の堀雄二、神田隆、南広、花沢徳衛ら刑事の地味なウラ付け捜査が始まる。

井川が女に質入れさせた指輪から、小地谷市の造り酒屋の息子・今井健二が分かり、彼と関係しながら、身分違いで引き裂かれた女であることが分かり、その母親が俳優座の重鎮女優の岸輝子。

中で、戦前からの刑事花沢徳衛が言う台詞が大変に興味深い。

「ああいう自白があれば、それだけで戦前なら犯人にできたのに、今は新憲法でこんな風にウラ付け捜査しないといけない」

監督佐藤肇は、『ゴケミドロ』等の怪奇映画でしか記憶されていないが、このようなリアリズム映画でもしっかりとした演出をしている。

『悪女』は、これまた昔の風景だった都会の家政婦紹介所から派遣された田舎出の純情な女・小川真由美の物語で、紹介所の女将は杉村春子。

邸宅の富豪は、三津田健で、いい人だがやや寝たきりの状態、芸者上がりの後妻は高千穂ひづる、息子の梅宮辰夫は、売れないテレビライターの遊び人、娘の緑魔子は大学生でフランス文学をやっているが、これも不良学生と遊んでいる。

タイトルを見ると、ここには悠木千帆、草野大悟などの文学座の若手が出ていたようで、三津田、杉村以下、完全に文学座映画。

小川真由美が、純情な田舎娘を演じるのが今見ると非常におかしいが、無理なく見られるのはやはり演技は上手い。

梅宮が小川を強姦してしまい、妊娠させたことから騒動になる。

小川には、トラック運転手の北村和夫という恋人がいたのだが、梅宮の子を産むという。

それをやめさせようとする梅宮、自分は子ができないので、小川の子を自分のものにして三津田の財産を一人占めしようとする高千穂、そしてこの騒ぎをさらに大きくしようと扇動する緑魔子。

題名に反し、小川真由美は悪女ではなく、悪いのは高千穂や梅宮、緑である。

最後、小川が梅宮を射殺して終わり。

監督の渡辺祐介は、新東宝から東映、さらに松竹でも多くの娯楽映画を作ったが、テンポがよく、メリハリが効いていて、今見ても面白い。

阿佐ヶ谷ラピュタ

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コメント

  1. КРАСНАЯ СОСНА より:

    「警視庁物語」は東映の名B級映画シリーズ全25作、それもすべて傑作揃いで、一本として駄作がないのは称賛に値する。

    エド・マクベインの87分署シリーズのように、刑事たちの地道な捜査活動に焦点が置かれ、映画的にはどの作品も黒澤明の『野良犬』を模範としているのは動かせない。

    すべてに共通するのは、「犯罪の陰に貧困か薄倖あり」という悲しくも不変のテーマで、当時(昭和30年代の街並みが懐かしくて、涙が出ます)の日本社会底辺とそこに蠢く貧しく薄倖な男と女が描かれており、低予算で、特に人気スターが出演しているわけでもないのに、これほど面白い作品が作れるという良い見本だった。

    このシリーズは58年、59年あたりが一番脂が乗っているが、小生の最高傑作は「深夜便一三0列車」で、そのスリリングな展開に置いて黒澤の「天国と地獄」に匹敵するであろう。全編ドキュメンタルタッチで描く監督・飯塚増一の手腕にしびれました。

    キャストはB・C級俳優陣のそうそうたる顔ぶれ、それらが入れ代わる立ち代わり刑事役を演じているのも楽しい。

    中でも花沢徳衛(全シリーズ出演ではないだろうか)が地味ながら渋い、人情味溢れる昔気質のデカに打って付け。

    『ウラ付け捜査』でのしみじみと憲法第38条について語る場面、「ああいう自白があれば、それだけで戦前なら犯人にできたのに、今は新憲法でこんな風にウラ付け捜査しないといけない」という台詞は今でも覚えています。

    女優ではお気に入りの小宮光江(B級映画の女王)が何度も顔を見せているので、大満足のシリーズ。

    このシリーズは58年、59年あたりが一番面白く、本編の時代劇巨編よりずっと愉しかった。

    このシリーズの魅力の一つにネーミングの妙があります。「終電車の死美人」「魔の伝言板」「逃亡五分前」「追跡七十三時間」「白昼魔」など、題名だけでどれも見てみたいという気にさせるものばかりでした。

    幸いなことに、GYAOストアで全25作(「謎の赤い電話」のみフイルムが消失しているのか、抜けている)が現在でも有料公開されており、今でも簡単に鑑賞できます。

    『ウラ付け捜査』の佐藤肇監督は、後年「散歩する霊柩車」などの傑作も撮っていますね。

  2. 「警視庁シリーズ」の1作目の監督小林恒夫は、元は東宝で、黒澤明の助監督でした。『野良犬』の頃には、小林はすでに東映に移籍していましたが、彼に黒澤の『野良犬』のドキュメンタリー的表現が影響していたことは間違いないと思います。その意味でも黒澤はすごいのですが、同時に黒澤は本質的にアクション映画監督であることを示しています。
    その意味で、黒澤は『天国と地獄』で終わりで、『赤ひげ』はもう下り坂だったと私は思っています。