『青い夜霧の港町』

日活のアクション映画のような題名だが、1956年6月の松竹大船映画、監督は溝口健二の書生をしていたこともある、酒井辰雄。

船が修理のために横浜に入港し、船員の大木実は上陸から港を見下ろす丘に行き、墓参りする。

すると女が来て、この女性もお参りする。大木は元ボクサーで試合で相手を殺してしまい、ボクサーをやめて船に乗ったのだ。

女性の島崎雪子は、その男の妻だったのだ。

                                                    

大木は、元いたジムに行き、ジムのオーナーの日守新一らと旧交を温め、彼は再びリングに立つことを薦めるが、大木はその気にはならない。

島崎雪子が水着でトレーニングしているので、なぜかと思うと彼女はモデルで、実際のファッション・ショーの場面もある。

当時は、女性がおすまししてシャなりシャなりと歩くもので、今のようないきなり飛び出してくるようなものではないのが興味深い。

島崎と大木はいろいろと再会し、恋心が募っていくが、島崎の義弟、つまり殺された男の弟の菅佐原英一は、「自分の夫を殺した男を好きになれるな!」と島崎を批難する。

なんと彼もボクシングをやっていて、日守が胃潰瘍で倒れた治療代のために、大木はボクサーに復帰し、興行師伊沢一郎の企みで、菅佐原との対戦に出ることになる。

結果は、大木の勝ちで、島崎と一緒になるかと見えるが、大木の船の修理が終わって出港するので、大木はボクシングを諦めて再び船員になって横浜港を出ていく。

ボクシングの場面も結構きちんとアクションしているが、大木、菅佐原の二人とももともとがメロドラマ的俳優なので、全体が非常に古臭い。

この作品の1か月前に、日活では石原裕次郎の『太陽の季節』が公開されて大ヒットし、翌月には裕次郎人気に便乗して初主演作品の『狂った果実』も公開されるのである。

つまり、時代は完全に日活のモダンで明るい世界に移行していくのである。

関係ないが、島崎雪子は、杉葉子、角利枝子と並び、藤本プロ3人娘と言われた女優で、大柄でルックスも悪くないが演技は下手で大成しなかった。だが彼女は、一度だけ大ニュースになったことがある。

それは松竹京都の助監督と結婚したという記事で、それはなんと神代辰巳だった。

神代の話では彼は、島崎の家の運転手よりも給料が低かったとのことだが、その後日活に移籍し、「渡り鳥シリーズ」の助監督として有名になる。

なぜかといえば、彼はチーフ助監督で、ロケ場所に先乗りして手配をするのだが、その場所の女性はみな神代のものになったことだったという。

また、監督の酒井辰雄は、溝口健二のところにいた経験を生かした女性映画で、嵯峨三智子主演の作品『こつまなんきん』は、結構いい作品だった。

島崎雪子と菅佐原英一は、まだご健在のようで、非常に喜ばしいことである。

衛星劇場

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする