『恋は異なもの、味なもの』

ラピュタの「銀幕の中の東京」シリーズ。昭和33年東京映画、監督は松竹、大映で娯楽映画専門の瑞穂春海。出演森繁久弥、日守新一、雪村いづみ、津島恵子、藤木悠ら。

上野の講談の寄席(日守)と鰻屋(森繁)の話。
雪村は、日守の娘で、兄は(出てこない)絵の勉強に渡仏し、許婚の津島は落ちぶれつつある寄席を手伝っている。
森繁は、妻・高橋とよの目を盗んでキャバレー・ダンサーの重山規子を囲っている。

森繁が、甥の藤木と雪村を結婚させようと日守に話を持ってくる。
式場の日取りまで決まるが、本当は藤木と津島が密かに好き合っていて、許婚のために互いに言い出せないでいた。

そこに、雪村の友人でパリからもどったピアニストから、兄はすでにフランスで結婚していたことが伝わり、藤木と津島が見事結ばれる。

ここにあるのは、男女のすれ違いが、ひよんなきっかけから無事修復されるという幸福感である。
昔は、女性は自ら愛を告白することはできなかった。
だから、好きな人があっても諦め、親の言うことに従い、結婚した。
それは、小津安二郎の遺作『秋刀魚の味』で、岩下志麻と吉田輝男が本当は好き合っていたのに結ばれない軽い悲劇として出てくる。
現実はこう上手くは行かないが、こうなれば最高という感じだろう。

昭和33年4月の作品で、小品なので、白黒、スタンダード。
この年の後半から日本映画は、すべてシネマスコープになる。

鰻屋の女中菅井きんが、森繁の愛人騒動からストライキを首謀するが、「近江絹糸にいた」と言うギャグがある。
当時、近江絹糸で女子従業員の大ストライキがあったことだが、笑う者はほとんどなし。

売れない講談家で一龍斎貞鳳。彼は、テレビの『お笑い三人組』で人気者だった。
雪村と結ばれることを示唆して終わる。

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