『酔っぱらい天国』

1962年の渋谷実監督作品、主演は笠智衆で、小津安二郎映画でとはまったく違う姿を見せて非常に面白い。

1950年代から、渋谷は大変に評価が高く、常に問題作の発表を求められていたので、当時こうした軽い喜劇の評価は高くなかったが、今見ると大変に笑える。

笠智衆は、ある会社の経理課長だが、ソロバン信者で、専務の滝沢修がコンピュータ化を推進し、そこにいた女性職員は全員配転されて、課長と係長の二人にされてしまう。

笠は、一人息子の石浜朗と二人暮らしで、石浜は看護婦の倍賞千恵子と付き合っていて、笠が石浜の結婚を承諾しないので、「子ができたから」と噓をついてしまう。

笠は、普段は大人しいが酒が入ると人が変わり、トップ屋の三井弘治らと大酒を飲み、騒ぐ親父になる。三井の他、姪の岩崎加根子の時計屋の夫・伴淳三郎も大酒飲みで、要は酒飲み連中が醜態をさらす。笠は、三井と悪酔いして警察に保護され、その時の様子がテープレコーダーで再現されるが、警察の廊下での放尿など大いに笑わせてくれる。

銀座のキャバレーに笠と三井は出入りし、そこにはプロ野球の球団東京ファイターズの新進投手の津川雅彦も来ていて、女の有馬稲子をめぐって色悪の佐藤慶と争いになっている。

いろいろあるが、そこで津川が暴れて、たまたまいた石浜の頭をバットで打って負傷させる。

石浜は入院し、笠のところには、専務の滝沢からファイターズの監督山村聰を紹介され、同郷の知り合いだから、金で解決してくれと20万円を渡されて納得するしかない。

その金で三井と飲んだ翌日、朝帰りで家に戻ると「息子さんが危篤よ!」と言われ病院に駆けつけるが、すでに亡くなっている。

そこからも津川が倍賞をものにしてしまう件があり、倍賞の実家の田舎の農家に行き、津川が「俺はファイターズの片岡だ」というが、親父の上田吉二郎が

「お前なんか知らない!」と言われる一幕もあり、渋谷らしい皮肉さである。

津川と倍賞がベッドにいたことを目撃して激怒した笠は三井とも組んで、キャバレーで津川をナイフで襲うが、間違えて他の男を刺してしまい、再び二人は警察の保護へ。

日本ほど酔っ払いに寛容な国はなく、渋谷も酒は飲んだと思うが、その醜態は苦々しく思っていたようだ。

松竹には、小津安二郎、木下惠介という二大酒豪がいて、常に助監督たちに囲まれて飲んでいた。その点、渋谷はどちらかと言えば孤独癖で、仲間や弟子をあまり作らなかったようだ。集団性になじまないと監督と言った作家でも上手く生きられないという例だろう。

衛星劇場

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