『帰郷』

川崎市民ミュージアムの今回は「昼下がりのメロドラマ」として松竹メロドラマ・シリーズ。

原作大仏次郎、監督大庭秀雄、主演佐分利信、木暮美千代、津島恵子。
戦前、不祥事から海外に逃亡した海軍軍人佐分利と木暮、津島との戦後の再会の話。
木暮は戦時中、佐分利とシンガポールで愛し合い、戦後銀座で佐分利の分かれた子津島と偶然に知り合う。
最後、三人は京都で再会する。

この映画は、昭和39年に日活で吉永小百合、森雅之、高峰三枝子で作られていて(監督は松竹出身の西河克己)、私は見ている。吉永と森の父娘の父物映画と思っていたが、ここでは木暮との愛と再会、別れが中心だった。木暮の妖艶さがすごい。

これは、五所平之助の大ヒット作『今ひとたびの』の反歌であろう。
高見順原作の同作は、戦前から戦後にかけての高峰三枝子と竜崎一郎のメロドラマなのだが、左翼的立場の映画だった。作られたのは、左翼運動の最高揚期の昭和22年で、この『帰郷』は、朝鮮戦争が始った昭和25年である。3年で日本の時代、社会は随分と変わったのだ。

原作は、大仏による保守的な立場からの戦後論である。
戦時中、シンガポールで佐分利を拷問した憲兵三井弘次が、戦後は進歩的作家らしい津島の義父・山村聡に追従する左翼ジャーナリストになっている。
岩井半四郎の気障で軽薄な若者など、戦後社会への反発は強い。
京都など、日本の伝統文化に本物を見出すところなど、日活作品で見たときには随分反発を感じたが、ここでは余りなかった。
大庭秀雄の丁寧な演出によるものだろう。
音楽が吉沢博と黛敏郎で、黛としてはきわめて初期の作品である。

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コメント

  1. bakeneko より:


    戦地での出来事とは言え、女は自分の身を守るために、愛する男を憲兵隊に売ってしまった.
    戦争も終わり幾年か経って、男が日本に戻っていることを知った女は、何とかして男に詫びようとする.....


    軍人だった彼は、海外に赴任中、公金を使い込み、更にその穴埋めのために博打に手を出して全てを失い、取り返しの付かない事態になってしまった.
    決して彼一人の責任では無く、仲間の分まで責任を負って彼は失踪したのだが、死んだ扱いになった彼は、日本に戻ることが出来ず、妻と子供を見捨てる事になってしまった.

    もう二度と、妻、子に会わない.日本を離れるという男に、女は一緒になりたいと言った.男は女に一度のチャンスを与えるために、どうするかトランプ博打で決めることにしたのだが.....
    けれどもその博打は如何様で、男は自分の決心に従って一人で去っていった.

    女は何とかして男に詫びて、そして許して欲しかった.それがために男に娘を合わせる算段をして、そして自分も一緒になりたいと言ったのだった.
    けれども、男は一人で去っていった.男は女を許さなかったのか?.そではない.男は自分で自分を許さなかったのだ.

    博打とは、運命を天に任せること.では、いかさま博打とは.....
    男は、女と一緒になるかどうか、如何様博打で決めた.つまり、自分の運命を天に任せたのではなく、自分の意思で決めたのである.
    選んだ道は、女にとって辛い結果であったのだが、彼にとっても辛い道、自分を罰する道だった.

    追い詰められた女が、自分の身を守るために愛する男を売ってしまっても、詫びれば許される道があった.
    けれども、博打に人生を賭けて、妻と子を見捨てた男は、どの様なことをしても許されない.