役を演じることについて

最近の映画、テレビを見て一番気になるのは、「役者が脚本の役を演じていない」ことである。役を演じているのではなく、「役者自身を押し出しているにすぎない」という風にしか見えないのだ。「役作り」という言葉はもはや死語のようだ。

先日の『海猫』でも、最も不満に思うのは、佐藤浩一が演じるのは、粗暴な田舎の漁師・邦一ではなく、佐藤浩一自身に見えてしまうことだ。同じく、仲村トオルが演じるのは知的な弟・広次ではなく、仲村トオルであり、伊東美咲が演じるのは薫ではなく、伊東美咲である。佐藤浩一は若手役者の中ではましな方だが、それでも彼自身を演じているように見える。彼の父・三国連太郎は、映画の役ごとにどれだけ変化したことか。

勿論、何をやっても同じという役者もいる。長谷川一夫は何をやっても長谷川一夫であり、ひばりはいつもひばりである。それはスターだからいいのである。「スターでもない奴が自分自身を演じるな」と言いたくなるのは私だけだろうか。

昔の日本映画の爽やかさは、その辺りにあり、また最近の韓国映画の人気もそこにあるのでは、と思っている。
韓国映画は余り見ていないが、以前香港・台湾のポピュラー音楽を聴いていた経験からすれば、そこでは歌手は歌に想定された役柄を演じる、というスタンスで歌っていた。それは、歌手自身の私生活しか表現されない日本のニュー・ミュージックとの大きな違いだった。

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コメント

  1. 碧田直 より:

    はじめまして。
    先日は、ブログにコメントいただき、ありがとうございました。

    役作りについての記事、興味深く読みました。たしかに役ではなく、自分が出てしまっている人が多いように思います。
    原因はいろいろあるでしょうけど、テレビの影響が大きいかな、と自分自身は考えています。台本にほとんど目を通すことなく、短いカットカットで表情を作っていくことが多いテレビドラマでは、全身で役を表現する必要がほとんどありませんし、役について吟味する時間もないのではないか、と。

    もうひとつあげるとすれば、役者とは呼べない人々が、役を演じている弊害もあるでしょうね。自分は小劇場に携わっていますが、役者のタマゴといえる彼らでも、うまい人とやると、それまでとは見違えるような演技をすることがあります。また、経験豊かな現場スタッフや、役者から教わることも多く、演技に対するアプローチが良い意味で変わっていくこともあります。
    周りが下手では、自分も上手くならない…そんな悪循環もあるのではないでしょうか。

    生意気書きました。それでは。

  2. 濃霧 より:

    通りすがりの者ですが・・・
    >最近の映画、テレビを見て一番気になるのは、「役者が脚本の役を演じていない」ことである。役を演じているのではなく、「役者自身を押し出しているにすぎない」という風にしか見えないのだ。

    同感です。今の若い役者などには、「役作り」ができない・「役作り」をしようという気すらもあるように見えないような役者が多いと思います。

    しかし、佐藤浩市に関しては、インテリな役、野生的な役、繊細な役、粗暴な役、陰のある役、善人役、悪役、クールな二枚目役、おちゃらけた三枚目役、エリート役、平凡なサラリーマン役…など、いろいろな役を演じることができるので、役の幅はかなり広いと思いますし、
    『海猫』の時のような粗暴な役の時と、映画『あ、春』の時のような平凡なサラリーマン役の時などを比べると、同じようには見えません。

    ドラマ『天気予報の恋人』と『リミット』では、髪型と服装が全く同じでしたが雰囲気が全然違っていましたし。(前者は根っからのお人良しでちょっと抜けていてとても繊細な役。後者はやさぐれた役(←佐藤浩市が得意で、よくやってる役柄ですよね。斜に構えた役は。)
    ドラマ『タブロイド』の飄々とした役、『天国への階段』のエリートで陰のある役、『素晴らしきかな人生』の軽くてちゃらんぽらんな役、『横浜心中』のワイルドで硬派な役、『恋人よ』の優柔不断な役、コメディドラマ『恋も2度目なら』でのコミカルな役、…など、それぞれの役に違和感なく自然と染まっていた感じでした。

    よって、彼は『役作り』をきちんとしていると思いますが…。(関係ありませんが、ドラマ『天国への階段』の時の彼の演技はとても素晴らしかったと思います。)

  3. ありがとうございました
    佐藤浩一は、若手(もう若手ではないかと思いますが)、中では確かに役作りがある方でしょう。勿論、父親の影響でしょう。緒方直人はじめ二世役者も多いが、彼は最も優秀な人でしょう。
    ところで、佐藤浩一の最初の出演作はなんだか、ご存知ですか。一般的には『青春の門』ですが、黒木和雄監督の『竜馬暗殺』のタイトルに佐藤浩一というのがあります。どこに出たのか分かりませんが。是非一度確かめて下さい。

  4. 濃霧 より:

    佐藤浩市のデビュー作について
    お返事ありがとうございます。

    俳優・佐藤浩市の名前は「佐藤浩一」と間違えられることが多いようですが、正しくは「佐藤浩市」ですよ。

    佐藤浩市の最初の出演作は、NHKで1980年に放送されたテレビドラマ『続・続事件 月の景色』だと思います。映画での初出演作は、1981年に公開された映画『青春の門 筑豊編』ですが。

    教えて頂いた、黒木和雄監督の『竜馬暗殺』という映画(1974年公開)ですが、早速調べてみたのですが、出演者の中に「佐藤浩市」の名前を見つけることはできませんでした。

    彼の出演作の中では、以前にも書きましたが、ドラマ『天国への階段』がお勧めです。原作者(このドラマの原作は同名の小説です)がドラマの主役に指名したという佐藤浩市が非常にはまり役でしたし、このドラマでの重厚で深い演技は、文句のつけようがないくらい良かったと思います。「このドラマを見ずして佐藤浩市は語れない」と言えるぐらいに。大げさではなく、本当にそう思うので。もしご興味がおありでしたら、レンタルビデオが出ていますので是非一度ご覧になってみて下さい。

    作品自体の良し悪しではなく、佐藤浩市にだけ関して言えば、他にもお勧めの作品はあります。
    佐藤浩市が自分の持ち味の全てを引き出したかのような役をやっていて、お勧めなのは『ある日、嵐のように』(中井貴一主演)というNHKのドラマ(これはドラマ自体も良作でしたが。)です。しかしこのドラマはビデオ化されていませんので…。

    NHKドラマ『天上の青』(佐藤浩市主演)での演技も良かったと思いますが、こちらもビデオ化されていません。

    『天国への階段』、『ある日、嵐のように』、『天上の青』に共通するのは、佐藤浩市の役柄が「陰のある」という設定の役であったということです。彼は陰のある役がよく似合うと思います。映画『壬生義士伝』でも陰のある役をやっていましたが、はまり役でした。あと、個人的に好きだったのは、ドラマ『天気予報の恋人』の時の彼の役と演技です。このドラマでの佐藤浩市は、「お人良し」という設定の役柄でしたので、品があってすごくおっとりとした、優しい雰囲気になっていました。彼にしては珍しい役でした。

  5. 濃霧 より:

    前に投稿した内容へのつけたしです
    連続で投稿してすみません。
    一つ書き忘れていたことがありましたので…。

    私は、二世俳優の中では中井貴一もとても良い役者だと思うのですが、さすらい日乗様はどう思われますか?
    私にとっては中井貴一も佐藤浩市も好きな役者です。

  6. 二世役者について
    多分中井貴一が二世役者の中では一番うまい役者かもしれません。『壬生義士伝』はひどい映画でしたが、ああいうつまらない武士を演じられるのは大したものだと思います。平気で悪役を演じられるのは、歌舞伎の中村橋之助がいますが、その意味では中井は大変貴重な存在です。ただ、スターではないですね。
    佐藤の方がスターの素質があるでしょう。

  7. 濃霧 より:

    中井貴一と佐藤浩市
    佐藤浩市のデビュー作についてですが、彼のプロフィールには’80年の『続・続事件』がデビュー作と書いてありますし、やはり彼の最初の出演作は『続・続事件』だと思います。彼は、役者の仕事をしたのは『続・続事件』の時が初めてと以前言っていましたし、『続・続事件』以前にも役者の仕事をしていたとは考えにくいです。’74年の映画『竜馬暗殺』の出演者の中に佐藤浩市の名前があったとしたら、それは同姓同名の別人である可能性が高いと思います。または、佐藤浩市がまだ俳優になる前、一般人であった頃にエキストラで出演したという可能性もあるかもしれないと思います。(しかし、エキストラ出演の場合だと、エキストラ出演者個々の名前は、テロップに載ることは中々ないと思いますが・・・。)

    中井貴一は善人の役がはまりますよね。映画『壬生義士伝』、ドラマ『ある日、嵐のように』などははまり役でした。精神的に強いというか、芯がしっかりした性格の人間の役がよく似合います。彼はそういう役をやらせたらピカイチだと思います。
    あと、彼は意外にやくざ役とかも似合います。映画『激動の1750日』でのやくざの組長役がはまっていたので、最初見た時はちょっと驚きました。

    中井貴一は生真面目な役が似合いますし、佐藤浩市はアウトローな役が似合うので、二人は雰囲気などが正反対で、役者として「好対照」だと思います。二世俳優はあまりぱっとしない人が多いですが、この二人は役者としてちゃんとしていると思います。

    しかし、2人は二世俳優である所は同じですが、中井貴一は父親の佐田啓二と比べられることはほとんどないのに、佐藤浩市の方は父親の三國連太郎としょっちゅう比べられています(比べる方が多いです)。まぁ、佐田啓二は故人であるということも理由にあるのでしょうが。

  8. 『竜馬暗殺』について
    『竜馬暗殺』のタイトルに、佐藤浩市の名はあったと思います。年齢から言うと14歳なので、子役として出ていたのかもしれません。
    この映画は、俗に「ゴールデン街映画」と言われ、新宿のゴールデン街にたむろしていた連中が作った映画なので、そうした遊び心のところがあり、何かのつてで子役として出たのかもしれません。

    中井貴一の悪役はあまり見たことがありませんが、二枚目が悪役ややくざをやると最高というのは、篠田の『乾いた花』での池部良が良い例でしょう。
    この役の成功で、池部は『昭和残侠伝』シリーズに出ることになりました。

  9. 濃霧 より:

    『竜馬暗殺』
    『竜馬暗殺』、調べてみたのですが、なかなか面白そうな映画ですね。佐藤浩市云々抜きにしても楽しめそうな映画なので、今度レンタルビデオ屋でビデオを借りて観てみようと思います。

    >中井貴一の悪役はあまり見たことがありませんが、二枚目が悪役ややくざをやると最高というのは、篠田の『乾いた花』での池部良が良い例でしょう。
    この役の成功で、池部は『昭和残侠伝』シリーズに出ることになりました。

    すみません、『乾いた花』も『昭和残侠伝』シリーズも観たことがないので分かりません。池部良という人も、顔は見たことがある感じですが、よくは知らない俳優です。

    『乾いた花』は篠田正弘監督作品ですか。この人が監督をした映画は、『瀬戸内少年野球団』、『梟の城』、『スパイ・ゾルゲ』しか見たことがないのですが、私はどちらかと言うと苦手な監督です。

    しかし、中井貴一はやくざ役が本当によく似合っていました。『激動の1750日』の時の彼はまだ29歳で若かったのですが、やくざの組長役に相応しい貫禄と迫力がありました。

    私は映画は(邦画も洋画も)古い映画はほとんど見たことがありません。モノクロ映画で見たことがあるのは、洋画では『ローマの休日』、邦画では『七人の侍』、『飢餓海峡』ぐらいですから。カラー映画で古い作品だと、中村錦之助主演の『宮本武蔵』5部作ぐらいしか見たことがありません(この『宮本武蔵』5部作はかなり面白かったです)。

    映画は、結構最近のものばかり見ています。その中でも面白かったのは、邦画では『どら平太』、『金融腐食列島 呪縛』、『突入せよ!あさま山荘事件』、『CURE(キュア)』、『リング』などです。(気がつけばそのほとんどが役所広司出演ものでした・・・。まぁ彼も好きな俳優ではあるのですが。でも彼の出演した映画は面白い作品が多いと思います。)
    洋画では、韓国映画の『猟奇的な彼女』、『殺人の追憶』などが面白かったです。(『殺人の追憶』は実話を元にした映画でしたが、演出が良くてお勧めの映画です。)

    しかし、映画でもドラマでも、昔の作品を見た時に思うのは、昔の俳優の方が今の俳優よりもスケールが大きいような印象を受けることです。

    私は、俳優には大きく分けて2つのタイプがいると思います。主役向きの華や存在感がとてもある「スター」タイプと、演技力があり、役者としての実力がある「役者」タイプです。(私は、「スター」タイプの俳優には、“演技力がある”というイメージはあまりありません。「スター」は、演技力に関してはあまり優れているとは言えない人が多いと思うからです。なかには演技力のあるスターもいますが・・・。)

    今の若い俳優の中で「スター」タイプは木村拓也などでしょうか。しかし、昔と比べると「スター」タイプが少なくなっているような気がします。「これぞスター!」という感じのする、スターらしいスターは、今の若い俳優の中ではあまり思い付きません。

    また、スタータイプではない俳優に関しては、今の俳優は昔の俳優と比べて、(良くも悪くも)ギラギラとした感じが少ないような気がします。(昔の俳優はスターでも、ギラギラとした感じを持っている人がいましたが。)

    俳優になるために必要なものとしては
     華、演技力、美貌、存在感、雰囲気・・・
    などがあると思います。
    そしてこれらのうちのどれかを持っていれば、俳優として通用するのでしょうが、これらの、俳優としての要素のどれをとっても、今の俳優は昔の俳優に比べてレベルが落ちているような気がします。

    例えば、演技力に関して言いますと、最近の芸能界では演技力よりもルックス重視という流れになってきているので、最近の若い俳優は、ルックスはともかく演技力は「俳優」と呼べないほどに低い俳優が多いです。

    また、そのルックスに関しても、最近の若い俳優は男も女も皆同じような顔に見えます。男優に関しては、皆どことなく中性的で、女優に関しては、似たような顔立ちの人が多いのか、流行りの化粧、髪型、服装をすると、皆たいして顔が違わなくなるような感じです。昔の女優には、見ると思わず息を呑むような絶世の美女とかもいましたが、今の「美人女優」と言われている人には、「そこらのちょっと綺麗なお姉さん」レベルの人が多いような気がします。

    まぁ、何でもかんでも「昔の方が良かった」と思うのは偏見で、良くないことかもしれませんが・・・。

  10. 『竜馬暗殺』は面白くないかもしれませんが
    『竜馬暗殺』は、当時の内ゲバ(と言っても分からないでしょうが)を映画化した作品で、薦められる映画ではありません。
    篠田正浩の『瀬戸内少年野球団』『梟の城』『スパイ・ゾルゲ』、みな彼の中ではよくない方の作品です。
    私が見たベストは寺山修司脚本で、加賀まり子初主演の『涙を、獅子のたて髪に』、同じく加賀・池部の『乾いた花』、それに幕末の偉才・清河八郎を描いた『暗殺』だと思います。
    『暗殺』は、清河が丹波哲郎、坂本竜馬が佐田啓二。清河を暗殺する佐々木忠三郎が木村功。これには蜷川幸雄も出ており、詩吟で踊ります。

    昔の映画は是非見た方が良いでしょう。
    とりあえず、以下のようなものでいかがでしょうか。
    『細雪』監督市川崑 主演吉永小百合・石坂浩二(東宝)
    『薄桜記』監督森一生 主演市川雷蔵・勝新太郎(大映) 
    『憎いあンちくしょう』監督蔵原惟善 主演石原裕次郎・浅丘ルリ子(日活)
    『浮雲』監督成瀬巳喜男 主演高峰秀子・森雅之(東宝)
    『天国と地獄』監督黒沢明 主演三船敏郎・山崎努(東宝)
    『早春』監督小津安次郎 主演池部良・岸恵子(松竹)
    すべてツタヤにあると思いますが。

    女優の美醜ですが、美容整形ができる今と昔は比較できません。天然ものと養殖ものの差でしょう。
    韓国は男女とも整形が多いそうですが、それより役柄が明確なことが注目に値します。
    以前、香港、韓国の歌手の公演をよく見に行ったことがありますが、そこでは歌の中の主人公につれて歌唱法や衣装も変化しました。日本の歌はすべて歌手の私生活しか見えません。その辺がつまらなくしている原因です。
    大衆芸能においては、演じられる役柄は明確であることが必要です。最近の日本の映画、テレビは役が不明確です。悪役なのか、善人なのか分からないケースすらある。今、一番明確なのは歌舞伎であり、その辺が歌舞伎の人気だと思います。

  11. 濃霧 より:

    ありがとうございます
    いろいろと教えて頂き、ありがとうございました。

    教えて頂いた映画の中で、先ずは小津安次郎監督の『早春』あたりから観てみようと思っています。小津監督の作品は、昔テレビで『秋刀魚の味』が放送されていた時に(途中からですが)観たことがあるのですが、ほのぼのとしていて、雰囲気が良い映画で、結構好きだったので。(岩下志麻が若くて綺麗で可愛かったことを覚えています。この人は今でも綺麗ですが。というか、今の方がオーラがあって綺麗なような気もしますが。)

    では、長々とサイトにお邪魔して、失礼しました。