『送り火』

劇団民芸の公演『送り火』を新宿に見に行く。作者は、ナガイヒデミという40代くらいの女性のようだ。京都に住み、関西で行われてる劇作家の養成講座で、劇作を学び、過去には「日本の劇」戯曲賞最優秀賞を受賞されたことがあるとのこと。

台詞は下手ではないが、私の感じたところでは、頭で考えた劇である。実は、この数日間、矢野誠一氏の『小幡欣治の歳月』を読み、小幡欣治がいかに対象を綿密に取材、調査して劇を作ったかを改めて知ったので、ナガイ氏の戯曲に対して感じたのだろう。

話は、西日本の地方都市(愛媛県今治)の町から離れて山間に一人住んでいた主人公照(日色ともゑ)が、高齢のために町のグループホームに入る決心をし、その移動の前日の一日のこと。

まず、嫌みな本家の老婆(船坂博子)がやってくる。ここで大筋が語られ、所有物を業者に委託して処分したことが語られる。ここは、今流行りの「終活」の実態に取材すれば、いろいろな面白い話があるはずで、劇に盛り込めれば良かったのに思う。また、グループホームの実態についても触れられていないので、劇の立体化を阻んでいる。

8月16日、お盆の最後の日で、本家の老婆が去ると、隣人の泰子(仙北谷和子)、さらに兄の康太(安田正利)らがやってくる。そこで明かされるのは、照の15歳上の兄圭介(塩田泰久)が、戦時中徴兵を受けるが女と逃亡し、村で非国民と言われた事実である。

ここまでは非常に淡々と進行するので、場内突然に『川の流れのように』が響いたのが、むしろドラマチック、むろん携帯電話である。

そして、夜中すぎ、やや認知になっている照のところに、二階への階段から兄の圭介が下りてくる。

ここからは少しドラマチックになり、若いままの姿の圭介と照の台詞のやり取りに笑いもはじけた。

最後、送り火の赤い火の玉が紗幕の裏に上昇していって幕。

そう悪い劇ではないが、構成も細部もう少し練った方が良いと思われた公演だった。

6月の小幡欣二の名作『熊楠の家』に期待することにした。

紀伊国屋サザンシアター

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする