がっかりと大笑い 『日蝕の夏』『大日本スリ集団』

長い間、見たいと思っていた映画が実際に見てみるとガッカリというのはよくある。

石原慎太郎主演の1956年の『日蝕の夏』がまさにそうで、これは真面目な監督の堀川弘通に不向きなジャンルであり、ともかく慎太郎の演技のひどさがすごい。見ていて、こちらが恥ずかしくなってしまうほどである。

もっとも、湘南の金持ちの次男坊が、父親と母親にそれぞれ愛人がいて、自分は幼馴染で付き合っていた司葉子を友人の本郷淳に取られるという役なのだから、可哀そうなのだが。役者本人に近い役柄というものは、芝居の演技経験のない者にはむしろ演技しにくいもので、まったく関係のない役なら演技できるものなのだが。

その証拠に、普通の人間を演じる小津安二郎や成瀬巳喜男の映画は、名優たちが演じていることでよくわかるだろう。堀川監督も、あまりしごいていないようで、きわめて中途半端な演技になっている。後の映画『危険な英雄』では、監督の鈴木英夫が徹底的に慎太郎をしごいたそうで、それなりに様になっていた。

大学でサッカーをやっている青年が慎太郎で、大会社の社長らしい父は山村聡、母は三宅邦子、兄は平田明彦。平田の元婚約者が若山セツ子だが、若山の家が急に没落したので、婚約を解消している。

慎太郎は、湘南の不良グループの佐藤允らと付き合い、悪さをしているが、謎の中年の美女高峰三枝子と出会い、彼女といきなり那須高原に行く。

するとゴルフ場で見たのは、山村聡と若山セツ子で、憤激して家に戻ると、三宅が男とキスしているのを見てしまう。

怒りの燃えた慎太郎は、山村の車のタイヤのナットを緩めてしまい、山村は事故で半身不随になってしまう。

いずれにしても、原作・脚本・主演の慎太郎が表現しているのは、大人は皆インチキで汚れているということだろう。

今更、そんなことを言われても白けるだけである。

『大日本スリ集団』は、監督福田純、原作・脚本藤本義一で、藤本には大映の「犬シリーズ」や勝新太郎主演の『とむらい師たち』のように少しも面白くないのもあるので、心配したが、これは大笑いだった。

戦場から始まり、刑事の小林桂樹と天才的スリの三木のり平の話で、非常に面白い。

三木のり平は、平田昭彦、古今亭志ん朝、砂塚秀夫、草野大吾らを組織し、スリ組合を作って相互扶助し若手を養成している。のり平の若い妻は、元ストリツパーの高橋紀子で、息子は寺田農で、ヤクザの手下になっている。

ある時、のり平は、小林に、娘の酒井和歌子がハンドバックに隠していて見せない封筒を掏ってくれと頼まれる。

見事阪急電車の中で掏って小林へ。これが鮮やかで、酒井を下車駅でやり過ごし、「お茶でも飲もう」と小林が誘い、「さすがにダメだったのか」と小林は、コールコーヒの代を払おうと財布を空けると、そこに封筒が挟まれている。

のり平が掏って、わからないように小林の財布に入れたのである。

本当にこんなことができるのか信じがたいが、その他若手を養成するため、熱い湯と冷水に交互に曝す訓練もあるが、本当だろうか。

封筒は、1年前に書いたある男との結婚届で、酒井は妻子ある男(民芸の役者の波多野憲で、日活にはよく出ているが東宝系は珍しい)に結局騙されて一緒になれず、逆にその記念に届を書いて持っていたというわけだった。

この映画は、東宝だがほとんどが関西で撮影されていて、製作が寺田忠弘なので、室内シーンは宝塚映画で撮影されたのだと思う。藤本義一も、映画界のスタートは宝塚映画である。

のり平が住んでいる古い長屋とその前の不思議な段差のある通りも本物で、非常に良い。

小林桂樹も三木のり平も、互いに仕事熱心のためか、もともとの妻は失くしている。

小隊長の菅原謙次以下の戦友会での、平田の手品、高橋紀子のお座敷ストリップも笑わせてくれる。

パチンコ屋で、平田を現行犯逮捕で手錠を掛けるが、平田は逃亡し、車にはねられて死ぬエピソードもあり、小林への復讐で、のり平は、手紙の件を酒井和歌子に言ってしまう。

酒井は家出し、結局はブラジルに行って自分を見直すことになるが、この自分を見つめるというのは実にバカらしいことで、私は大反対である。自分なんて見つめ直したところで、何も出てこやしないものあるのだから。

今度は、三木のり平への復讐で、小林桂樹が、寺田農が敵のヤクザに刺されて足を洗おうとするときに、ヤクザの親分の清水将夫と大滝秀治に言って寺田に指を詰めさせる。

これにのり平は激怒して警察に乗り込んでくるが、興奮のし過ぎで脳卒中で倒れて入院してしまう。

その間に、高橋紀子と寺田農はできてしまい、三木のり平の元を去ってゆく。実際にこの二人は夫婦だったことがあり、それで高橋紀子は女優を辞めている。

小林は、半身不随になり指が動かなくてスリができなくなった三木のり平を老人ホームに入れる手続きをする。

だが、大阪駅で、動かない手を使って女性から財布をするのり平がいて、小林がそれを止めさせるところでエンド。

やはり、映画は上手い役者が演じると面白くなるという例の典型である。

阿佐ヶ谷ラピュタ

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