猪瀬直樹氏の奇妙な著作権解釈

猪瀬氏の『道路の権力』(文芸春秋)を読んでいて、奇妙な著作権解釈を見てびっくりしてしまった。335ページに次のように書かれている。

 「国交省は軽量計画研究所に税金を使って委託した。そこで発生した著作権ですね。著作権と言い張るけれど、税金を使って委託したものを国民は知る権利がある。それを私的著作物として扱うこと自体がおかしい。このおかしさ、わかりますね」

これは、彼が例の道路四公団民営化推進委員会の中(2002年7月)で、将来の交通需要推計資料の詳細を出せと要求したとき、国交省が「その統計プログラムは調査機関である計量計画研究所に著作権があるので出せない」と言ったことに対する反論なのである。
国民に公開せよ、という意見は正しいだろう。しかし、税金をいくら出そうが、著作権はその著作物を創造したもの(この場合は計量計画研究所)にあり、委託者である国にはない。著作権を根拠に公開を迫るのは、筋違いなのだ。この場合は、国の方が解釈は正しい。
もし、金を出したものに著作権があるとするならば、著作権を持つ作家は存在しなくなる。何故なら、作家は原稿料という対価を得て著作物を書いているので、猪瀬理論だと出版社に著作権は帰属することになる。あるいは、最終的には読者が金を払っているのだから、読者に帰属することになるのか。
彼は、素人ではなく、日本ペンクラブ言論表現委員会の委員長なのである。その人が、このような珍妙な解釈であるとは、憂慮に堪えない。ペンクラブの会員は平気なのだろうか。

序に、同じ民営化推進委員会委員長代理(昨年2月に松田氏らと共に辞任)だった田中一昭氏の『偽りの民営化』(ワック社)を読んた。彼は、国鉄民営化の事務局を勤めた方で、行政改革に大変造詣の深い方なのだが、この本によれば猪瀬氏は、民営化を裏切った人間として批判されている。
さらに、政治評論家で同じく国鉄民営化の委員も勤められた屋山太郎氏の『道路公団民営化の内幕 なぜ改革は失敗したのか』(PHP出版)を読むと、もっと強烈に猪瀬氏の罪悪が暴露されている。
あの委員会の中で、改革派といえたのは、田中氏の他、JR東日本会長の松田昌士氏、それにコンサルタントの川本氏だけで、今井敬委員長と中村武蔵工大教授は国交省・道路公団べったりの改革反対派、猪瀬氏と大宅映子氏は当初は改革派のように振舞ったが、途中から完全に国交省・道路公団側の人間になってしまったのだそうだ。
道路公団等の民営化は、その後の政府・与党協議の中で完全に骨抜きになり、到底民営化とは呼べないものになりつつあるようだ。
委員会は、今井委員長が辞任された後、田中・松田委員も、この骨抜きに抗議し小泉首相に落胆して辞任され、川本委員も出席せず、中村委員は2年前の意見書(これは一応改革派の線に沿った意見書だった)が採択されて以後出席せず、今は猪瀬、大宅氏が二人だけで懇談会をやっているに過ぎないのだそうだ。

屋山氏は、時事通信出身でかなり右よりの人だと思っていたが、こういう人からぼろくそに言われるのは、猪瀬氏に相当に問題があるのだろう。屋山氏は、「改革を阻害した人々」として、小泉首相、石原国交省大臣、そして猪瀬氏を挙げている。屋山氏のジャーナリストとしての見識を見直した。

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コメント

  1. ママ林 より:

    猪瀬直樹の寝返り
    猪瀬氏は、8月6日放送のテレビタックルでも、その奇妙な発言で、年金問題で戦う弁護士と、萩原女史を怒らせ、大竹と阿川の顰蹙を買っていた。権力に寝返った彼は、小泉安倍の擁護に回り、その理不尽さに自ら不貞腐れて、居直り、庶民の常識を言う萩原氏に攻撃的にさえなっていた。ジャーナリストとして国民に対する裏切りであり、文学者としても堕落した者の末路だと感じた。