『従軍慰安婦』ほか

あの従軍慰安婦の映画化である。

原作は千田夏光で、脚本は石井輝男、なぜ石井が監督もしなかったのかは不明だが、忙しすぎたからだろう。

監督は鷹森立一で、当時「日活では井田探、東映では鷹森は見る必要はない」と言われており、理由はつまらないからだが、これは結構面白かった。やはり石井輝男の力だろう。

昭和12年、日中戦争の開始と共に、女衒(小松方正)は田舎で女性を集め、まず福岡で女たちを訓練する。

遣りて婆は武智豊子で、「いいか、へのへのもへじと腰を動かせば男はすぐ果てるから楽なもんだ」と女を教育する。

女は、緑魔子、三原葉子、叶優子らだが、掃きだめの鶴が中島ゆたか。みな貧困から家のために身を売ったのだ。

中国に行き、戦場で彼女たちは商売に精を出すことになるが、軍医が由利徹で、衛生兵がタコ八郎というのが笑える。

中島は処女で、水揚げは中尉にされてしまうが、「女は、心がきれいならいつまでもきれいよ」と三原に励まされる。

福岡で会った後、偶然に中国の戦場で、中島は恋人だった達純一と再会し、ここでやっと達と結ばれる。達純一というのは、樋浦勉に似た感じだが、もっといい男で背も高い。

緑は結核で、中島は、部隊が完全に包囲されてせん滅されるときに、戦場にまで出て行って死んでしまう。

熱で弾が出なくなった機関銃の銃身を、叶が銃にまたがり、おしっこで冷やして敵に撃たれるというシーンもある。

小松らは、死んだ中島、緑、叶らの遺骨を抱いて帰国することで話はエンド。

最後、タイトルが出る「慰安婦は8万人だった」

秦郁先生によれば、数はそんなもので、5・3・2・1の比率だったそうだが、それは日本人、中国人、朝鮮人、その他欧米人の構成比とのこと。

慰安婦がいたのは事実で、それが無償か有償か、軍隊の関わりについては私はコメントしない。

ただ、この時期まで、日本映画には谷口千吉監督の『暁の脱走』から鈴木清順監督の『春婦伝』まで多数の従軍慰安婦作品があり、みな本当にあったこととして思っていた。

この特別上映の前に映画『悪女』があり、前に見たが、非常に上手く構成されていて感心した。悪女はあるが、悪男はないのは、どうしてなのだろうか。

杉村春子、三津田健、北村和夫、小川真由美など、ほとんど文学座映画で、ドライブインの娼婦の一人で悠木千帆(現樹木希林)がいた。

シネマヴェーラ渋谷

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コメント

  1. ねこむすめ より:

    この作品は長らくフィルムがなくなったとされていたのですが、ちゃんとあったんですねぇ。おそらく東京での上映しかないんでしょうね。いつか、東映チャンネルでの放送を期待しています。
    「陸軍」はなくて、たんなる「従軍慰安婦」という題名だったと思います。作品の中では朝鮮人慰安婦もいてのでしょうか。千田夏光さんの原作ではルポですがいたとのことですが。

  2. そうでした、ご指摘ありがとうございます。
    誰か分かりませでしたが、妙な発音をする女優がいて、朝鮮人のことだと思いました。
    ニュープリントだそうで、当然ですがネガはあったんですね。