『オイディプス』『イワーノフ』

鈴木忠志演出作品が首都圏で上演されるのは16年ぶりだそうだ。
ファンではないが、一応日本演劇界で最高の演劇理論家なので見に行く。
幕間で彼のトークも聞けた。

いつもの鈴木演出だが、『オイディプス』は主役がドイツ人で、ドイツ語で演じられる。他の役者はすべて日本人。
オイディプス王の孤独感がよく浮かび上がっているが、字幕を読むのが面倒で感動するまで行かない。

昔、音楽雑誌『ミュージック・マガジン』の演劇批評で、私は鈴木忠志の劇を「キャバレーで演じられた能」と書いたが、今回のは「巨大倉庫で演じられた能」という感じ。

見たことのない人には想像しにくいだろうが、ギリシャ悲劇を和服(といっても相当に奇妙な衣装なのだが)で大いなる違和感を持って演じられる。
昭和20年代の東映時代劇での奈良時代あたりの服装である。
スズキ・メソッドで、腰をぐっと下ろし、すり足で動き、独特の力強い発声で台詞が発せられる。

「劇はある物語や特定のテーマの絵解きであってはならず、劇そのもの、具体的には役者の演技で感動させるべきだ」というのが鈴木の説である。
私は、彼は演出家というより、演技コーチ、演技訓練者と言うべきではないか、と思っている。
野球で言えば、試合を見せるのではなく、投手や打者のフォームの素晴らしさを見せることである。
それが面白いのは、相当に演劇に詳しい人間であり、普通のファンには無縁で、面白くもなんともない代物というべきだろう。

チェーフォフの『イワーノフ』は、役者が篭の中から出たり、篭を体に付けて演じられる小品で、余り面白いものではない。
女性は、車椅子に乗って出てくる。
『オイディプス』でも、主人公だけがずっと車椅子に乗って演じている。
それは、現代社会が、「出口の見えない終わりなしの円環状の世界」を回っていることの暗諭だそうだが、こじつけと言うしかない。

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