『ならず者』

1956年に東宝で青柳信雄が監督したアクション映画。

主演は三船敏郎、志村喬、清川虹子、岡田茉莉子、白川由美、太刀川洋一など。青柳と言えば、演劇界から東宝に入り、監督や製作をやった人で、東宝争議後の新東宝設立時には、中心の一人として活躍したが、その後東宝に戻った人物である。かなり、時世に敏感で変わり身の早い人だが、なぜか黒澤明とは大変に仲がよく、青柳の息子青柳哲郎を黒澤プロの役員にした。彼は『暴走機関車』と『トラ、トラ、トラ!』で大失敗を起こすが、黒澤は青柳哲郎を擁護するという関係だった。

話は、山奥の木材切り出しの飯場に三船がやってくる。彼は前もいて、怪力だが酒と博打の問題児、すぐに現在のボスの千秋実と喧嘩になる。そこの親方は志村喬で、帳場を藤原釜足がやっている。飯炊き女は、清川虹子で、なぜか美人の岡田茉莉子と白川由美が手伝っている。現地は、日照りが続いていて、川の水が干上がり、切り出した木を川に流して町に出すことができず、町の会社からの給与が滞っている。

話は、主に三船と千秋の争い、病弱な男の太刀川と白川由美の恋、対する肉体的な三船の岡田への思慕などで進む。また、飯場は藤原が来て以来、時間制の給与になっていて、「以前の出来高制にしろ!」という三船の藤原への反発もある。この時、藤原は言う、「時間制の方が、無理矢理出来高を上げるよりも、休憩等をきちんと取る時間制の方が長い目で見れば効率的だ」と。これは、よく考えれば、当時の東宝争議中の組合の主張で、反組合派で、新東宝に行く青柳が作品中で言うのは意外。もっとも脚本は木村武で、台詞は菅原卓(劇団民芸の演出家)なので、やや左翼的なのだが。

藤原が町に行き給与をもらってくるが、木材が出されていないということで、半分だけで、三船は怒り、さらに工夫たちから博打で全部を奪ってしまう。それを懲らしめるため、志村は自分の全財産の貯金を賭けて三船と博打するが、三船に負けてしまう。翌日、山を下りる三船を千秋らが襲うが、三船は金を一切持っていない。三船は、飯場に残してきたのである。志村は言う「あいつは俺たちの金を持っていくような男ではない」最後、大雨が降りだし、全員の大歓喜の中で、三船と岡田、太刀川と白川、さらに志村と清川が結ばれることを示唆してエンド。

ここに描かれるのは何か。それは飯場のごとき、撮影所の人間全員への賛歌と連帯だと思われる。それは黒澤明にも非常に強くあったもので、彼は晩年に至るまで、撮影現場の仲間意識に生きていた。その意味では、黒澤明と青柳信雄という対照的な経歴の監督にも共通する意識があったのかと思うのである。

日本映画専門チャンネル

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