劇場のバリアフリー化

近年、公共施設でバリア・フリーやユニバーサル・デザインが進められているが、一番遅れているのが、劇場やホールである。

先日、恐るべき『魔法の笛』を見た横浜市泉区のテアトルフォンテもそうで、玄関にバカげた『風と共に去りぬ』のような階段があり、エスカレーター、エレベーターはない。
「スーパー内のエレベーターをお使いください」となっているが、それに乗ると、「ここは楽屋口なので、止まりません」と利用者をバカにしている。
どうして、こうなったのか。

テアトルフォンテは、舞台機構を完備した演劇専用ホールだそうで、舞台の後方のバックステージを広く取ってある。
そのため、客席はひどく狭く、また玄関も狭小でエレベーターの場所がなく、金もなくなったのだろう。
建設当時、「演劇専用ホールなんて、日本じゃ市川猿之助の「スーパー歌舞伎」か劇団四季のミュージカルくらいしか舞台機構を駆使する集団はなく、彼らは小さなところではやらないので無意味じゃないの」と私は知り合いの課長に言った。
事実はそのとおりで、舞台機構を駆使したことは全くない。
当時は、「多目的ホールは無目的、専用ホールを作れ」というアホな標語があり、それに乗せられた間違いの一つである。
私は、「出来のいい多目的ホールを作るのが経済性からも一番」と当時から言ってきたし、現在もそう思う。

いずれにせよ、日本の劇場、ホールはひどい。
首都圏で一番ひどいのは、六本木の俳優座劇場と木挽町の歌舞伎座である。
どちらもエスカレーター、エレベーターはなく、すごい階段がある。
歌舞伎座は、都営地下鉄の東銀座駅から、狭く傾斜の強い階段があるのだから、さらにひどい。
松竹はいずれ建替えるそうだが、すぐに着工し、地下鉄駅から歌舞伎座の地下に直接に入れるようにすべきで、そうすれば観客はさらに増える。
世界に誇る文化財である歌舞伎のためには、国や東京都も援助してそのくらいにすべきだと私は思う。
石原慎太郎東京都知事も息子と文化事業をするよりも、歌舞伎座建替を支援した方が、芸術に理解のある知事として、長く歴史に残るに違いない。
芸術文化の振興には、こうしたところに手を付けるのがまずは最初なんだよ、平田オリザ先生、あれこれの施策を作らせるよりもね。

『風と共に去りぬ』のような馬鹿げた階段がある世田谷パブリック・シアターや品川天王洲のアートス・フィアでは、玄関に案内の方がいてエレベーターにきちんと案内してくれる。それくらいは、ホールは当然すべきである。
そして、それが長期的には観客を増やす方法なのである。

横浜に出来た「みなとみらい線」は、意外にも乗客が多く営業状況も良いそうだが、その理由の一つに完全なバリア・フリー化があると思う。
乗ると高齢者のグループが多い。
皆安心して乗れるからである。

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