『新二等兵物語・めでたく凱旋』

多くの映画を見てきたが、これほどひどいのも珍しい、その嘘が。喜劇だといっても程度がある。

最初のまだ日本が勝っていたころと字幕が出るので、昭和10年代のことだろう。

造り酒屋の主人のアチャコのところに、伴淳三郎が馬車を持ってくる。

チューブのようなものの先から悪臭が出ていて、汚わい車、バキューム・カーである。引くのは馬だが、人が自転車のペダルを踏むとポンプが動き、汚物を吸い取るようになっているという。これはバキューム・カーだが、昭和10年代にはなく、20年代に川崎市が開発したものなのである。敗戦直後には、汚わいの樽を車に積んで引いている馬車が東京でもあったもので、進駐軍は、「ハニーバケット・カー」と呼び、『ハニーバケット・ソング』という曲があったくらいなのだ。

これは、伴淳三郎が主演して大ヒットした映画『糞尿譚』のラストで、怒った伴淳がバキューム・カーから汚わいを市役所前に噴出されるシーンがあったことから来た誤解だと思う。

例によって伴淳とアチャコらが二等兵として徴兵され、内務班で山路義人の上等兵から虐められることが前半の中心になる。

ところが突然、班は外地派遣になり、同時に新人で張り切った将校が来る。

そして、中国に行くが、この将校の指揮で、班は道に迷って中国軍の大軍の中に入ってしまう。すると伴淳とアチャコは中国軍の陣地に行き、地面を掘って敵の部隊の中心に出てしまう。そこで二人は農民の姿をしているが、中国軍の司令官の渡辺篤と清川玉枝に会う。その部隊の指揮をしているのは名和宏以下の中国軍だが、彼ら全員が日本語を話し、理解している。彼ら中国軍兵士と伴淳、アチャコも日本語で話すのだから信じがたい。

大映の『兵隊やくざ』や『陸軍中野学校』でも中国軍や中国人も出てきたが、みな中国語を話し、日本語の字幕が出たはずだ。

筋は、名和宏の不正を糺すために農民の姿をして潜入してきた渡辺と清川が実は司令官で、名和を捕まえ、日本軍を黙った通過させて、戦闘はなく、めでたく凱旋となる。

二等兵シリーズの最終作だったので、もうどうでもよくなっていたのかもしれないが、いくら何でもひどいと思った。

衛星劇場

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