『柘榴坂の仇討』

「桜田門外の変」を題材にした作品は結構多く、『侍ニッポン』を原作とする映画はサイレント時代から5回作られている。

中では岡本喜八監督の1965年の『侍』が良かったと思う。

三船プロダクションの実質的なデビュー作というべき娯楽大作で、三船の他、小林桂樹、八千草薫、志村喬らスターの出演で、ラストの井伊直弼大老襲撃のシーンの殺陣は本当に凄かった。『侍』でも、直弼を演じたのは、松本幸四郎・中村吉右衛門兄弟の父、先代の白鷗だったが、ここの吉右衛門も良い。今度松本幸四郎を譲り、二代目白鴎になった先代の幸四郎では、無理だったと思う。自動車保険の宣伝もできる洋風な芸の当代の白鴎だが、時代劇の役は相当に無理があると思う。

この映画は、大老中村吉右衛門の側近の警護係に起用された下級武士で剣の達人志村金吾の中井貴一は、槍を使う大きな男と対峙している間に、大老は水戸浪士らに襲撃されて惨殺されてしまう。

時代は急速に変わり、明治になってしまい、廃藩置県で武士は職を失うが、襲撃の一味も事件後に多くが処罰された他、次々と死ぬ。だが中井は、丁髷と武士の姿で、一人だけ生き残っているはずの襲撃犯・佐橋十兵衛を探している。日々の生活は、妻の広末涼子が居酒屋で働いて支えている。

江戸から東京となった町で、ある日、中井はかつて同じ道場の仲間だった旗本の息子高島政宏に捉まる。彼は新政府の邏卒、巡査になっていた。そして、高島は、上司の藤竜也に中井の話をする。藤は、維新以前は評定所の役人だった。

中井は、藤によばれて彼の邸宅に行くと、いろいろと問答があるが、藤は言う、

「お前は忠義者だな・・・幸福だな」とも言われる。

水戸浪士で一人だけ生き残っていた男佐橋十兵衛は阿部寛で、今は長屋に住み人力車夫に身を変えている。

そして雪の降る夜、新橋駅で中井は人力に乗り、柘榴坂に行く。車を引くのは阿部である。

二人は、柘榴坂で対峙し、戦う。最後、脇差の中井が、阿部に勝つ態勢になる。

阿部は言う、「殺せ」と。だが、中井は殺さずに去る。この日、太政官布告で仇討禁止令が出されたからで、また阿部も中井と同様に苦しんできたからだ。

中井が主演した、浅田次郎原作で滝田洋二郎監督の『壬生義士伝』は、ばかばかしい出来だったが、これはそうはひどくなかった。話は嘘だろうが、本当らしい工夫が感じられた。

彦根藩で、中井を詰問し、「誰か必ず上げよ」と問い詰める上司が見た役者だなと思うと、津嘉山正種で、さすがの迫力だった。

衛星劇場

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする