『挽歌』

1957年の五所平之助監督のこの映画を見たのは、1978年で蒲田宝塚だった。

ここは、イトーヨーカドーの中にあり、今もある映画館である。

私が最初にこの話に触れたのはテレビで、亀井光代の主演だった。記録を見ると監督は抒情的な野村孝だったようで、タイトルバックは風連湖の景色で、良い撮影だった。

話は、釧路市で、多感な美少女の久我美子をめぐる物語、母はいず、父親の斎藤達朗、ばあやの浦辺粂子と生活している。彼女は左手が不自由で、それがコンプレックスになっているという設定。

仕事はなく、地元のアマチュア劇団で背景を書いたりしていて、そこには久我に恋している石浜朗もいる。

久我は、ある時犬に噛まれ、二枚目の建築家の森雅之と知り合い、一目惚れし、もたもたしているがついには性交に至る。ももちろん、ベッドシーンはなし。

森雅之には妻があり、高峰三枝子だが、なぜか医師の卵の渡辺文雄と不倫している。悪役の代表のような渡辺文雄が典型的な二枚目であるのが今見るとおかしいが、当時は善玉の二枚目だったのである。

高峰三枝子の美しさは大変なもので、久我は「ママが好きよ」と、森には隠して彼女と交際するようになるが。吉永小百合の映画『光る海』の時、共演の金子信夫が、「高峰のあまりの美しさに台詞が出なかった」と西河克己が言っているが、本当にこの頃の高峰は彫刻のように美しい。

最後、不倫の果てに高峰は、風連湖で自殺してしまい、久我は森と別れて劇団の連中と人形劇公演に行くところで終わる。

この映画を今見て驚くのは、出てくる全員が上品であることである。

そして、この映画は驚くことに興業収入2億3千万円と大ヒットし、この年8位だった。1位は新東宝の『明治天皇と日露大戦争』の5億円。

この年が、日本映画最高の配給収入で、映画館数も最高だった。

その後、こうした品のある映画は日本映画から次第に駆逐されなくなってしまったのだとあらためて思った。

衛星劇場

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