「酒豆忌」で

「酒豆忌」というのは、中川信夫監督を追悼するもので、毎年中川監督の作品を上映し、関係者を呼び話を聞くイベントの他、豆腐と酒で乾杯する集いである。

今年は、1957年の新東宝映画『人形佐七・大江戸の丑三刻』が上映された。

話は、津島藩家老と御用商人が結託した悪事で詰め腹を切らされた重役の息子・和田孝が殺人の疑いを掛けられるが、佐七の活躍によって無事解決されるもの。津島藩下屋敷の表札があるなど、笑えるが、話は面白い。ここで気づいたのは、主演の若山富三郎の芸は、江戸前の芸で、非常にあっさりとしていたことだ。

比較すれば、長谷川一夫の『銭形平次』などは、かなり濃くの強い芸だったと思う。このあっさりしていたことが、若山が新東宝、大映でスターとなったが、今一つ人気が出なかった原因だろうと思った。最後の東映では主に京都に行き、そこで関西風な灰汁の強さと喜劇の芸風を体得して人気を得たのだと思った。

懇親会では、実行委員の下村健さんと『美しい人』とのことなどをお聞きする。これは以前からあることは分かっていたが、権利関係とフィルムの状態が良くなかったので、3回の上映にしたとのこと。その他、末期の新東宝では、倒産の前に助監督を監督昇格させようと、山際永三、下村暁二、土屋啓之助、武部弘道らが昇進したそうだ。彼らの作品にはすでにない物もあり、斎藤寅次郎の『三下二丁拳銃』も、東宝で公開されたがフィルムはないとのこと。当時は、二次利用、三次利用などあるとは思っていなかったので、会社は処分したのだが、その大きな理由には、所持していると固定資産税がかかるからである。プリントは償却資産として課税されるのだ。

その他、いろいろと面白い話があったが、ゲストとして女優の阿部寿美子さんが来られたことは書いておく。俳優座の阿部さんとは意外に思われるかもしれないが、彼女は新東宝にいたことがあり、『女競輪王』に前田通子とも共演しているのである。阿部さんは88だそうだが、お元気で声が非常にはっきりしていたのは、さすがに女優。

和田孝さんは、89歳の今もお元気で、この日はお孫さんがお見えになったそうだ。若き日のおじいさんを見て驚いたに違いない。

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