『アワモリ君売り出す』『アワモリ君乾杯』

川崎市民ミュージアムの今月は川崎市にちなんだ芸能人で坂本九の主演作品。
「あわもり君」は、秋好馨の漫画が原作で、坂本九のアワモリ、ジェリー藤尾のダイガク、アワモリの父親が有島一郎、ヒロインが森山加代子で東宝で1961年に3本作られたお手軽映画。
『売り出す』は、有島のやっている洋品店の土地をチャームスクールを経営する沢村貞子が寮にしようと買収に応じない有島に会うと、なんと小学校の同級生だったことが分かり、愚劣な経緯はあるが、二人が結ばれて無事建物もできる。

『乾杯』は、アワモリ(坂本)が町で女の子(森山)に一目ぼれし、互いを金持ちの子どもと誤解して自分を偽るという常套的パターンの話。
坂本が行っている大学名を「早慶大学」と言う、今では親父ギャグにもならない。
ジェリーがなぜか幼児の弟を会社に背負って出勤し、オムツやおしっこの下品なギャグがある。『釣りバカ日誌』にも、赤ん坊の下ネタが出てきたと思うが、愚劣な発想である。給仕という職種がこの時代にあったかは、疑問だが、こういう下品でつまらないシナリオを、その後シナリオ学校の先生で有名になった新井一先生が書いているとは、いかなることか。
ジェリーの両親は、丘寵児と都谷かつ江の貧乏漫才師。
最後、銀行強盗事件に巻き込まれ、ギャング(田部謙三とパラダイス・キング)から追われ、逆にギャングを追って全員が東宝撮影所に入る楽屋落ちがある。
そこでは、松林宗恵監督の名作『世界大戦争』が撮影されている。
フランキー堺、乙羽信子夫妻の娘星由里子が宝田との結婚話を告白する場面で、松林監督の姿と声も入っている。小さな木造家屋のセット撮影。
なんと、この愚作は『世界大戦争』の併映作品で、観客は本編を見ると同時に、撮影場面も見たことになる。
『売り出す』も、大作『モスラ』の併映作品だった。

添え物の、その程度の映画であり、この1961年の翌年に植木等の『日本無責任時代』で大ヒットを飛ばす古沢憲吾だが、この頃はまだ面白くも何ともない監督だった。
古沢らしいのは、『乾杯』の盆踊りのシーンで、地域の踊りなのに、数百人のエキストラで大々的に撮っているが、中で『九ちゃん音頭』がドドンパに変わるのが時代である。

ラスト・シーン、九ちゃんが時計を持っていなくてアベックに時間を何度も聞いた相手の青年が、今度は九ちゃんに時間を聞いてくるギャグがある。
彼は、大ちゃんこと、井上大助である。
1950年代は、東宝の青春スターで人気があった「大ちゃん」だが、この頃には落ち目だった。
これは、「大ちゃん」から「九ちゃん」へのバトンタッチ式だったわけだ。
彼は、1977年に42歳でなくなられたそうだ。

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