『コースト・オブ・ユートピア』

イギリスの劇作家トム・ストッパードの上演時間9時間の大作、演出蜷川幸雄、主演阿部寛、麻美れい、瑳川哲郎など。
言ってみれば、真山青果の『元禄忠臣蔵』の西欧版であり、大演説大会である。

19世紀中期のロシア、皇帝ツアリーの恐怖政治の中で、バクーニン(勝村政信)、ゲルツィン(阿部寛)らは、政治革命を夢見る。
その他、作家ツルゲーネフ(別所哲也)、評論家ベリンスキー(池内博之)などの知識人は、ドイツ等の先進思想に影響されて、議論に議論を重ねる。
まさに議論だけで、そこに実践はないが、それでもツアーの恐怖政治は圧迫を加えてくる。それが、第一部「船出」

彼らは、結局国外に出て、主にパリで活動するのが、第二部の「難破」
劇としては、ここが一番良く出来ていて、ベリンスキーとツルゲーネフの、ゲルツィンとバクーニンの友情には何度も涙が出た。
だが、すべての人間への愛を称えるゲルツィンの純情な妻(水野美紀)は、ドイツ人の作家で女たらしのヘルボーグ(大森博史)の誘惑に落ちてしまう。
そして、彼女と息子は、海難事故で死んでしまう。
パリでは、7月革命が起き、一時は皆が革命に興奮するが、最後は共和国政府によって弾圧されてしまう。ロシアも、自由の国フランスも人民に敵対し、殺戮する上では、同じなのだ。

第3部「漂着」は、ゲルツィンがさらに亡命した主にイギリスでの話になる。
彼ら、欧州の社会主義者、アナーキスト、ごろつきは、ロンドンに亡命してきて、労働者協会からインターナショナルの設立になる。
ゲルツィン、バクーニンらは、空想的社会主義、無政府主義として、後のマルクス・レーニン主義からは否定されてきたが、当時ではむしろ彼らの方が優勢だったようだ。
ゲルツィンは言う、「我々は(彼とバクーニン)、国家をなくすことを考えているが、マルクスは国家を盗むもうとしている」
その後の、ロシア革命からスターリンの恐怖政治、そしてソ連崩壊を見れば、ゲルツィンらの方が正しかったのかも知れない。

鈴木忠志によれば、「こうした劇で感動するのは、劇そのものに感動したのではなく、思想や歴史的事実に感動したので、邪道だ」と言うことになる。
だが、阿部以下の役者の頑張りは、やはり感動的だった。
唯一論外だったのが、ヘルボーグの妻のとよた真帆。こんなひどい役者はいまどき珍しい。同じ蜷川の『タンゴ、冬の終わりに』の常盤貴子以来だ。

さて、わが国に戻れば、「友愛」を称える鳩山ゲルツィンは、寝技師の小沢一郎レーニンとの間で上手く政権を運営できるだろうか。
大いに注目したいところだ。

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