成瀬巳喜男の映画では、ほとんど評価されない作品で、高峰秀子主演の年代記物である。
高峰・成瀬コンビとしては、最後の方で、この次の『乱れる』、『ひき逃げ』で終わりになる。
東京で女手で美容院をやっている高峰には、一人息子の山崎努がいて、彼は自動車会社のセールスマン。
母に隠れて、キャバレー上がりの女・星由里子と出来ている。
高峰は、二人の結婚を許さず、山崎は家を出て、結婚同棲してしまう。
ところが、山崎は交通事故で急死してしまう。
ここまでで、約45分、
「この後一体どう展開させるのか」と思うと、話は元に戻ってしまう。
まるで、1963年の当時、「高度成長の豊かな時代など、興味はない」と言う風に、戦前に戻って、貧乏、苦労、悲劇の話を実に楽しく展開する。
ここでは、高峰秀子と姑賀原夏子が最高のコンビで、賀原の性格が大変に面白い。
昭和初期の東京下町、高峰に憧れていた木場の材木屋の息子宝田明は、高峰を迎えて結婚する。
父の清水元は、材木の商売を手広くやる他、株にも手を出していたが、暴落で失敗し、浅草の芸者と心中してしまい、店もつぶれてしまう。
宝田は、商売が嫌いで会社員だったが、彼にもついに召集令状が来る。
だが、そのとき、宝田にも女がいたことが分かる。それは、戦後草笛光子であることが、偶然に闇屋での偶会で分かるが。
昭和20年3月に大空襲で家は焼かれ、高峰は息子と賀原を連れて茨城に疎開する。
そこに来る、宝田の戦死公報。配達人が織田政雄の適役なのががうれしい。
戦後、高峰は宝田のいた会社に退職金を貰いに行くが、伊藤久哉の課長ににべもなく断られる。
帰る高峰を追いかけて来るのが、宝田の同僚で、密かに高峰を憧れていた仲代達矢。
ここからは、二人がいかにして結ばれないか、しかし心の中では出来ているかを描く。
成瀬巳喜男得意の、心の不倫である。
高峰は、昔の贅沢が忘れられず、タバコ、酒も好きな賀原と息子を抱え、東京に闇米を売りに通っている。
ある日、闇市で仲代に再び再会すると、仲代は「隠匿物資で作ったから」と大金を高峰にくれる。
賀原は言う、「あの人はお前のこと好きなんじゃないかね」
二人は、今日こそはと思い合っているが、その夜は、やっと手に入れたペニシリンを持って帰り、肺炎の息子に与えなければならない日で、二人はまた別れる。
そして、昭和30年代、デパートで高峰は高校生の娘を連れた仲代に会う。
仲代には白髪が。
仲代は闇がばれ、田舎に引っ込んでいたので、会えなかったのだという。
そして、現在に戻り、高峰は星由里子と和解し、店に引き取り、助手をさせる。
賀原は、公園での孫の世話などそっちのけで、
「あのおじいさんたら、今度百円温泉に行かないかい、なんていうのだよ」と浮かれている。
この賀原夏子と、真面目で家や家族のために自分を犠牲にして生きる高峰秀子の対照が実に面白い。
久しぶりに日本映画を堪能した。
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