『母の贈り物』

昔、本田延三郎というプロデューサーがいた。
戦前は、左翼劇場にいて、戦後は新劇協同社というマネージメント会社を作り、その後は俳優座の経営部、そして劇団青俳を作った方である。
青俳は、かつては俳優座、民芸、文学座の次に位置していた劇団で、木村功、岡田英次を始め、清村耕治、後には西村晃も参加するなど、創作劇を意欲的に上演する大劇団だった。
だから、真山知子、蜷川幸雄、石橋漣司、蟹江敬三と言った連中も研究生に入ったのだ。
最後は、中野良子らも客演して話題作をやっていた。
だが、1960年代の後半につぶれてしまう。
政治の季節の一つの結果と言うべきだろう。

本田氏は、その後は、五月舎を作り、主に日本の創作劇を上演してきた。

この『母の贈り物』は、本田延三郎・富子夫妻の子、青木笙子が、晩年の父と母のことを書いたもので、大げさに言えば、「涙なくしては読めない」本である。
夫妻は、富子の義兄が、雑誌『テアトロ』にいたことから、戦前に知り合った。
娘が、父に馴れ初めを聞くと、本田氏は、富子は獄中の自分に洗濯物や本を持ってきてくれた。
「ありがたい話じゃないか。帰っていくとき、赤いリボンが揺れている後ろ姿を見れば、誰だって心ときめくと言うものさ」と照れて言ったそうだ。
戦前の新劇や非合法活動の方の心情が分かる話である。

本田氏は、演劇と平行して、映画の製作もやった。
東映東京で、今井正監督の『米』『純愛物語』は彼の製作であり、だから後者には若き日の、世界の蜷川幸雄、あるいは高津住男なども出ている。

かつて、自民党の長老は、「日本社会党の歴代委員長、鈴木茂三郎、浅沼稲次郎、河上丈太郎と言った方は、政治的にはともかく、人格は総理大臣級だ」と言ったことに通じる立派さがある。
今の社民党の福島みずほ党首の人格は、総理大臣級であろうか。

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コメント

  1. 洞澤 より:

    Unknown
    横浜に生まれて育って40余年、管理人様が折に触れ記される横浜市政治家列伝は他に例を見ないため地元民として大変、興味深く愛読しております。折しもこのブログで社会党委員長のことが触れられておりましたが、私の年代の横浜市民にとっては社会党委員長というと飛鳥田一男が印象に残ると思います。もちろん飛鳥田市政の頃は小学生、その功罪を理解できる年頃ではありませんし、退任後にN氏、T氏登用など毀誉褒貶さまざまだったことを知りましたが、それこそ、政治的はともかく、人間的には同じように国政に転身したN前市長などと比べるとはるかに市長としての風格を感じさせる方だったように思います。

  2. さすらい日乗 より:

    別に書きます
    ご愛読ありがとうございます。
    飛鳥田一男氏については、別に書きます。

    N前市長とは、中田ヒロリン宏氏のことと思いますが、まだ国会議員に復帰していませんが。
    山田宏杉並区長と同様、「投げ出し首長」が当選できるかは、相当に厳しいでしょうね。