元大映のスターだった本郷功次郎が亡くなった。
74歳とは今では非常に若いが、それも寿命というべきだろう。
彼は、それほどの名作に出ているわけではないが、不思議なことに大映の二大スター、市川雷蔵と勝新太郎の二人に大変可愛がられたそうだ。
この二人は、本人同士は仲が悪かったわけではないが、大スターには自然と周囲に取り巻きができるもので、それが対抗意識を盛り上げるのである。
あるとき、大阪新歌舞伎座で萬屋錦之助の公演が行われたが、錦之助が急病休演になり、開演数日前に代役を本郷功次郎がすることになった。
舞台は初めてだったので、本郷は、演劇公演の先輩の二人に聞きに行った。
すると雷蔵は、「脚本の台詞を全部憶えろ、台詞を憶えておけば演技は自然にできる」と言ったそうだ。
次に勝新太郎に聞くと
「台本の台詞なんか憶える必要はない。役の心をつかめば台詞は自然に出てくる」と教えてくれたそうだ。
二人の演技への考えの違いがよく表れていて面白いが、実は二人共同じことを言っているのである。
そして、これは演技は、型か心か、という問題でもある。
日本映画の一つの時代を飾った好漢のご冥福をお祈りする。