西村滋原作の、戦中から戦後にかけて孤児院(映画では感化院)出の主人公が経験する物語だが、これが他の戦争期の話と違ってユニークなのは、お菓子を中心に描いていること。
また、主人公の少年アキオを養子にするいしだあゆみに見られる、親切なのかケチなのかよく分からない最底辺の庶民の姿を描いていることだろう。
これは1970年代にテレビで放送されて好評で、松竹で映画化されるとの話も聞いたが、ずっとなくて2010年に独立プロで製作された。
テレビでは気づかなかったが、先生が歌う『エクレール・お菓子と娘』は、日本の唄で、西條八十作詞、橋本邦彦作曲で、藤原義江も歌っているそうだ。
テレビ版は、先生は高橋洋子で、少年は今は河原崎権十郎となった坂東正之助だったと思う。
監督の近藤昭男は、増村保造らに師事したそうだが、表現は淡々としていて、増村のような強引なドラマ作りはない。
主に東北の地方都市で撮影されたようだが、戦時中の町の感じはよく再現されていると思う(と言って私が生きていたわけではないが)。
ただ、どうしても田舎なので、ラストの上野で行われるのど自慢のシーンは、閑散としていておかしい。
最大の問題点は、主人公の少年アキオと院の陽子先生の年が離れて見えることで、いつまでも恋愛中とは見えないことだ。
この話は、西村滋自身のことではないようで、彼の伝記的事実は、『雨にも負けて、風にも負けて』によれば、石原裕次郎主演の映画『やくざ先生』のように、孤児から児童養護施設の教員になったと言うのが正しいようだ。
そこで、児童生徒を組織して芝居をやり、注目されたことから劇作の世界に入り、テレビドラマ等を書くようになると言うのが正しいらしい。
戦中期の話なので、東京大空襲、原爆投下等が出てくるが、ニュースフィルムではなく、紙芝居的な絵を使っているのは、実際の上映ではどのような反応があったのか気になるところだが。
衛星劇場