深沢七郎原作、木下恵介脚本・監督作品。甲州の武田家の興亡と庶民の関わりを描く作品。すごいのは、全篇のアンチ・ヒューマニズム。それは、深沢のものでもあり、木下のものでもある。
人間は「ボコ」として、死んだ爺や婆の生まれ変わりとして「ぼこっ」と生まれ、物のように簡単に死んでゆく。そこには人権も人格も全くない。それが戦中までの日本の庶民だった。
しかも、一家の多くが武田に殺されたにも係わらず、「お家様のご恩で生きているのだ」と言い、武田と共に死へと向かう息子たち(市川染五郎、中村万之助)の馬鹿さ加減。
ここは、木下の日本、天皇制、さらに日本人全般への鋭い批判の目があると思われる。木下は、一般に「お涙頂戴映画」監督のように見られているが、実は大変前衛的な、批評的な監督である。