映画界には、監督としてよりも脚本家としての方がよいと思われる人に新藤兼人がいるが、熊井啓もその一人のように私には思える。
彼は日活時代に、『第三の男』の改作である『霧笛が俺を呼んでいる』娯楽映画を含めて多数の脚本を書いている。この推理物も非常にシリアスで良い作品だった。
監督は牛原陽一、彼は日本映画界で最初の東大出の監督牛原虚彦の息子で、大映から日活に来て、石原裕次郎作品など結構良いものを作っていたが、あまり評価されず、結局日活を出てPR映画に行ったようだ。
立川基地近くの住宅で男が拳銃で殺され、それは米軍基地から盗まれたものであることがわかる。
所轄の刑事が宮口精二で、警視庁の若手刑事が二谷英明、捜査が進むが、東京の商事会社が偽の融資をして多くの会社を手形のパクリで倒産させていることが分かり、その担当の二課の刑事が鈴木瑞穂。
パクリ屋は、中国人の陶隆と大滝秀治で、ここは中国語で会話させている。
元ダンサーで、今は陶の妻になっているのが渡辺美佐子、電気会社の社長で下元勉など、結構いい俳優が出ている。
アリバイというのは、渡辺が犯人の男の替え玉を使い、犯行時刻に、替え玉が薬屋で栄養剤を買って犯人ではない証拠としていることで、最後は勿論二谷が気づいて犯人らは逮捕される。
1963年という日活にとって最高の時期で、大変に充実していたことがわかる作品の一つである。
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