『マロニエの花が言った』

清岡卓行の大部の著作である。
清岡と言えば、『二十歳のエチュード』の作者で、夭折した原口統三の満州時代の旧制高校の友人。
日本に引き上げてからは大学卒業後、抒情的な詩人になり、かなり人気があって有名だった。
この人の詩は、「星菫派」的とも言えるほどに抒情的できれいだった。

だが、彼は東京大田区池上の都営住宅に住んでいて、私が大学時代のある夜、池上線の車内で見かけたことがある。
抒情詩人として知られていたが、見ると中年の「豚顔おやじ」で本当に驚いたものだ。
また、彼は当時プロ野球セントラル・リーグの事務局に勤務し、各チームの試合日程等を組んでいた。だが、彼は巨人のファンだったので、時には巨人に有利に試合を組んだと言われていた。

後に、彼は法政大学の教授になり退職後、若いときからの憧れのフランスに旅行する。「おフランス」と言いたくなるほどだ。
そのときの興奮から、この本は始まるが、昭和初期からの日本の芸術家の渡仏が詳細に記述されている。
なんともすごい本で、その厚さは4センチくらいあり、その上に(上・下)2冊である。
上巻は、自身の渡仏の後、画家岡鹿之助の渡仏から始まる。
彼は、以前ここでも書いたが、劇評家岡鬼太郎の息子である。
岡鹿之助が岡鬼太郎の息子なのは知っていたが、さらに鬼太郎の父が幕末の遣欧使節団の団員の一人で、フランスに行った経験を持っていたことは初めて知った。
その後、画家藤田継嗣とシュールレアリストら、金子光晴と森三千代、そして最後に第二次世界大戦勃発での岡鹿之助の帰国となる。

清岡は、詩人としての業績も勿論あるが、フランス文化研究家として、この大著は多分永く残るだろうと思う。
その記述も、彼の詩のごとく、とてもきれいである。

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コメント

  1. 都営住宅 より:

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