『夏の嵐』に唐十郎が出ていたとは驚き

ラピュタの中平康特集、原作は学生小説コンクールで1位になり、昭和31年の芥川賞候補にもなった深井迪子の小説、脚本は長谷部慶冶とは珍しい。この人は、市川崑の太陽族もの『処刑の部屋』も書いているので、その関係だろうか。長谷部は、東宝レッド・パージ組で、フリーでシナリオを書いて、今村昌平の『にっぽん昆虫記』『赤い殺意』等もある。
太陽族の女性版で、中平の監督だが、『狂った果実』等の湘南風俗映画とは相当に違う。
主人公の養護学校教師で、美貌で生意気な北原三枝の自意識過剰な恋物語である。
あえて類似の作品を探すなら、フランソワーズ・サガンのようなものだろうか。

北原の家は富豪らしいが、父親の伊達信は無気力なインテリで骨董が趣味、クリスチャンで偽善者の母親の北林谷栄が家を支配し、北原の姉の小園蓉子に結婚相手を決めてしまう。北原、小園、そして弟の津川雅彦はすべて血の繋がらない兄弟という複雑な設定がなかなか分かりにくいが、北林谷栄の偽善者ぶりが、面白い。

小園の結婚相手の三橋達也が来て驚く北原三枝。
彼は、2年前にキャンプに行った夜、森で会い、抱擁した仲なのだ。だが、ここではセックスはしていなくて、愛はすべて内面のことである。自意識過剰な話なのだ。
だが、森の中で出会うシーンは、とてもロマンチックに描かれていて、北原三枝が大変西欧的で美しく、また真鍋理一郎の音楽も抒情的である。
中平が、こんなロマンチックな面を持っていたとは初めて知った。

北原は、好き合っている三橋とは結局セックスはしなくて、学校の同僚金子信夫とはホテルに行ってしまう。気まぐれと言うべきか。
三橋は、研究者だが、女と無理心中して生き残った男だと言う。
ともかく、人生論等の観念的議論が随分あるのが笑える。
この女は、ひどく生意気で、三橋との再会を喜び、小園には内緒で密会を重ねる。
外人墓地で三橋と二人になったときなど、「理性を確かめて見ません」などと誘ったりする。勿論、性交はしないのだが。

結局、三橋は小園と結婚する運びになるが、式の直前、4人は晩夏の海に行く。
そこで、三橋は台風で荒れる海に泳ぎ出してしまう。
すると、北原も海に身を投げてしまう。
一応は、純粋な愛に殉じろ、というメッセージなのだろうか。

北原三枝先生が教える養護学校の生徒に、大鶴義弘君、なんと唐十郎大先生である。
アホなことを言って、北原先生にビンタを食らう大鶴少年は、父親が記録映画の監督だったので、子役で結構出ていたらしい。
こんな映画でお会いするとは驚いた。

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