意外な傑作 『青い野獣』

1960年、堀川弘通が、白坂依志夫の脚本で監督した、仲代達矢を主人公とする作品で、意外にも大変面白い傑作だった。

小出版社の編集部員の仲代が、美貌と度胸と知恵で、出世してゆく話で、言わばジュリアン・ソレル物語である。

大学時代は学生運動をやっていた彼が、田崎潤社長の雑誌社に入れたのも、田崎の妻丹阿弥弥寿子と関係していたからだったが、こうした背景は次第に語られていく運びもよくできている。

雑誌社では、賃上げと不当配転で経営者側と組合が対立していて、仲代は組合の副委員長だが、実は田崎に内報し、金を貰っている。

仲代の学生時代の友人で、労評専従(総評のことだろう)の中谷一郎も争議に介入してくるが、組合は分裂し、闘争は敗北に終わる。

一方、仲代は、雑誌の取材で、大財閥千田是也の娘で美女の司葉子を見たことから、彼女に目を付けモノにしてしまう。

最後、無事千田に二人の仲を認めさせ(千田が当時俳優座の代表であるので一座員の仲代が堂々と対するのがおかしく見えるが)、すべてが上手く行ったと思うと、 いうものである。

中谷に一緒になっている元女学生闘士が淡路恵子で、もちろん仲代は彼女とも関係する。この二人のホテルの部屋に、中谷が来た時の3人の芝居が非常に良かった。淡路恵子が、芝居、特に台詞が上手いのに感心した。

司葉子が著しくきれいだが、学生の一人として児玉清が出ていた。

この頃、堀川は、前年に『黒い画集・あるサラリーマンの証言』を撮り、その前にも小林桂樹の『裸の大将』を作っており、最高潮だったと言える。

彼は、リアリズム派なので、理詰めの運びのミステリーや、その逆も真なセンチメンタルなメロドラマにも合っていたのだろう。

松竹大船で最高のメロドラマ『君の名は』を監督した大庭秀雄が、非常に知的であったように、メロドラマは論理的でないと成立しないのである。

併映は、名作『女殺油地獄』で、近松門左衛門の筋書の上手さにあらためて驚嘆するが、桂米朝、芦屋雁之助・小雁兄弟、三津田健など、さまざまな俳優が出ている。

音楽は、宅孝二で、この人は大映が多く、東宝は少ないと思うが、荘重な響きだった。

新文芸坐

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