『黒の挑戦者』から役者の自己管理へ

1964年に、大映で制作された村山三男監督、田宮二郎主演の探偵映画。
島田一男原作の弁護士・南郷次郎が主人公の「南郷次郎探偵帖」で、新東宝でも作られていたもの。

南郷のところに女性から助けを求める電話が来て、そこから秘密クラブ、パーティー、麻薬、密輸等の組織が分かると言う、いつものお手軽作品。
唯一のひねりは、顧問弁護士を依頼していた見明凡太郎が悪玉だったというところだけ。

ただ、田宮二郎は芝居が上手いのに気が付いた。
くだらない話だが、悪人どもを本当に憎んでいるように見える田宮の告白だった。
役への思い入れが的確で強いのだ。
多分、彼は自己へも思い入れも強い人間だったのだろう。
簡単に言えば、自己陶酔型の人間であり、これは役者としては適性である。
だが、それが行き過ぎると幻覚や精神異常になってしまう。
良い役者とは、そうした異常性を内部に持っているが、反面上手く飼いならすことも必要なのだ。

監督の井上梅次も、田宮二郎の演技には感心したが、同時に「大映撮影所を自分が買い戻す」など、誇大妄想の異常な言動を心配した、と自書に書いていた。
そうした役者の持つ「異常性」は、かつて映画会社が強力で、しっかりした俳優管理があった時代はほとんど問題にならなかった。
だが、1960年代以降、映画会社の俳優管理が崩壊すると、役者は個々自分で自己管理をしなくてはならなくなる。
それに失敗したのが田宮二郎であり、同じ大映の勝新太郎である。
市川雷蔵は、そうなる前に死んでしまったが。

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