大映の『西遊記』

大映で、1952年から54年にかけて3本作られた『西遊記』『大あばれ孫呉空』『殴りこみ孫呉空』が放映された。
こんな作品があったなんて知らなかったな。
戦時中に、東宝でエノケン、高峰秀子らの出演、山本嘉次郎の監督で『孫呉空』が作られ大ヒットしている。
政治学者古川隆久によれば、これは戦時中に最もヒットした作品の1本だそうだ。
確かに、よく出来た映画で、エノケン以下、岸井明、金井俊夫らの、孫呉空、猪八戒、娑後浄らの友情は戦時下にあって希望の物語だったと思う。彼らがみなエノケン劇団という同じ仲間だという楽しさに溢れている。

主演は、孫呉空が坂東好太郎、三蔵法師は春本富士夫という、渋いと言うか、地味なキャスト。
大映の特徴で、東宝のような明るさ、楽しさがないのがつらいところだ。
監督は、1作目は冬島泰三、2本目は加戸敏、3作目は田坂勝彦。

全体に特撮がチャチでひどいが、中では加戸敏監督の2本目が面白くて一番まともに見られた。
理由は簡単で、娑呉城役に伴淳三郎、悪役に清川虹子が出ているからである。
やはり、伴淳や清川らはすごいことをあらためて確認した。動きもギャグもさすがである。
監督で言えば、冬島は根が真面目な人なので、こういう嘘話には不向きで、3作目の田坂勝彦も田坂具隆の弟なのでそれに近く、娯楽映画専門の加戸敏が一番合っていた。

話としては、前2本で、三蔵法師らは、唐から艱難辛苦を乗り越えて、天竺に着いたので終結で、3本目の『殴りこみ孫呉空』は独立した、孫呉空の単独の話になっている。
これが実におかしいのだが、「天上で呉空が暴れたため、地球に人間の姿になって善行を積むよう来た」というもので、坂東好太郎の素顔が見られる。
坂東好太郎は、サイレント時代からの松竹の主演役者で、長谷川一夫から甘さと粘着性を取除いたような容姿と台詞。
少し声がかすれ気味だが、かなりいい男である。

話は、完全に中国風の時代劇になっているが、花柳小菊と灰田勝彦が営む孤児院を、伊沢一郎の悪漢が横取りしようとするのを、坂東の孫呉空力で撃退し、彼は天上に戻る。
伊沢一郎と坂東好太郎の対決など、どう見ても戦後的ではなく、戦前である。
だが、この孤児院と言い、伊沢らの根城のキャバレー風の店にしろ、完全に戦後的風景である。
キャバレーの歌手として、歌手の胡美芳が出ていた。
彼女は、戦後日本でデビューした中国人歌手だが、映画出演は大変珍しい。
日本映画専門チャンネル 大映特撮特集

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