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『フェイシング・アリ』

アリとは、言うまでもなく3回ヘビー級チャンピオンになったモハメッド・アリのことであり、彼と対戦して死闘を繰広げたボクサーによる証言と記録フィルムで、昔からボクシングが好きだった者にとってはたまらない作品である。 我々が、ボクシングのヘビー級タイトルマッチを知り、実際にテレビで見たのは、ヨハンソンとパターソンのやり取りで、この二人の間にベルトは何回か行き来した。 その後、無敵のチャンピオンのソニー・リストんが現れて、アメリカの黒人ボクサーの時代になる。 そこのヒーローがモハメッド・アリで、当初はカシアス・クレイで、日本でも真似してカシアス内藤がいた。 アリは、蝶のように舞い、蜂のように刺すと自ら言ったように、ヘビー級としては並外れてフットワークが軽く、またアウトボクシングを主体とし、完璧なテクニックで相手を翻弄した。 相手を翻弄すると言えば、彼の口撃もその一つで、言語で相手を挑発し、安心を奪い、その隙を攻めた。 昔、日本の海老原博幸がアメリカにタイトル戦の特派員として派遣され、その時の報告で、 「アリはボクサーではなく、しゃべり屋だ」と言っていたが、これを見るとアリのしゃべり屋ぶりはすごい。 また、ジョー・フレイジャー、ジョージ・フォアマン、ラリー・ホームズ、ケン・ノートン、ヘンリー・クーパー等の歴代のチャンピオン、アリの敗者が出て来て話すが、誰も論理的で、きちんと語っている。 あるいは脚本があったのかもしれないが、実に皆冷静にタイトルマッチのボクサーを演じていたのだということに驚いた。 アリは今はパーキンソン病であることを見ても、彼が真面目な人間であることがわかる。 パーキンソンは、真面目な人間がなりやすく、日本で言えば昭和天皇が晩年はパーキンソン病だったのであるのだから。 横浜ニューテアトル

平沢雪村

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