紫陽花の季節で、今はどこでも咲いている。
別に好きでも嫌いでもないが、紫陽花と言うのは、実は花柳界の隠語では、男から男へと変えて生きている女のことだったそうだ。
なぜなら、「イロを変える」だそうで、だらか昔花柳界の女性は、自分の家の庭に紫陽花を植えることはなかったとのこと。
そんなに旦那に対して義理立てしていたのかと思うが、一応建前としても「私はあなたから離れませんよ」というメッセージではあったのだろう。
永井荷風の戦後の小説に『あじさい』があり、戦前から戦中、戦後にかけて様々な男たちを遍歴する女の話でである。
多分荷風は、若い頃からいろいろな場所で、つきあってきた「商売女」から聞いて書いたのだろうが、なかなか面白い小説。
そこには浅草の楽隊屋らの慣習として、正月の「恵方参り」が出てくるなど、「恵方巻き」は、つい最近にコンビニが作り出したものではないことが出てくる。
昭和の風俗史、特に下層の男女の交わりの諸相を知る上で、大変貴重な資料でもある。
これらを基にして作られた映画もあり、1957年の清水宏監督作品、京マチ子、淡島千景、船越英二主演の『踊子』である。
浅草の楽隊屋、踊子らなどを描いたもので、風俗的に見て結構面白い映画だった。
あじさいの季節などと、そう広言するものではないと思う。