『大根と人参』

小津安二郎記念映画と称されていて、小津が野田高梧と脚本を構想していた物を、渋谷実が監督を受け継いで1965年に作った作品。

渋谷実は、映画『モンローのような女』の失敗で、「もうだめだ」とされていて、これもひどいとされてきたが、改めて見てみると結構面白い。

主演は、もちろん笠智衆だが、小津映画の温厚で、異常なほどに真面目な中年男の殻を途中で完璧に破り、破天荒に騒ぐところは、大笑いである。

筋は、中学の同級生の笠と山形勲の友人で大学教授の信欣三が、ガンになり手術をするが、それを本人に知らせるべきか、否かの論争から始まる。同級生には、いつもの中村伸郎、北竜二、菅原通斎らなど。

笠の妻は乙羽信子で、これは田中絹代の代わりだが、よく似ている。

彼らには4人の娘がいて、岡田茉莉子は銀行員の池部良と、有馬稲子は前衛美術家の加藤芳郎と結婚しており、司葉子も相手は出てこないが、結婚して家を出ている。

4女の加賀まりこは、山形勲の息子三上真一郎と恋仲と、小津映画の常連の総出演であるが、なぜ田中絹代が出ていないかは不明。

笠の弟で出来が悪く、やっと笠の口利きで同じ会社に入れた長門裕之が会社の金を100万円使い込み、その穴埋めを依頼してくる。

笠は自分の貯金を下ろして70万円を渡し、残りは後日株を処分して長門に上げると言い、現金化するが、そこから突如失踪してしまう。

残された一家は大騒ぎになるが、笠智衆は大阪に行っていて、連れ込み宿に住んでいる。

コールガールの桑野みゆき、女衒の加東大介、インチキ漢方薬屋の菅井一郎らと知り合い、ハメをはずして浪速の日々を楽しんでいる。

その姿は、小津映画の笠智衆とは全く異なるもので、大笑いできる。また、台詞なしだが、中村晃子も見える。また、岩下志麻も、戦争中に笠が従軍していた工場に動員されていた女性教師との間で密かに作った娘として出てくる。

最後は、もとに戻り、信欣三は死んでしまう。悪妻の森光子が競輪に行く場面は、今はない鶴見の花月園競輪場だろう。

ただ一人出ていないのが、原節子だが、それは仕方のないことだったのだろう。

日本映画専門チャンネル

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