西河克巳監督の舟木一夫映画も見ていたが、『絶唱』で、死体の和泉雅子と結婚するというネクロフィリア(当時はそんな言葉はなかったが)的趣向に参ってその後は見ていなかったが、これは舟木一夫と松原智恵子のメロドラマの傑作だったのには驚いた。
昭和初期、日本海近くの城下町、大きな邸宅の深窓の令嬢が松原で、そこにいきなり旧制高等学校生の舟木が来て、「庭の椿を切らしてくれ、この家は元は自分の父の物で、墓参りに持っていく」という。
彼は、女中の野村昭子に適当に追い払われてしまうが、それは事実で、北海道のニシン漁で財を成した粗野な男・島田正吾が、舟木の父親から買った屋敷なのだ。
彼女には、結婚話があり、元城代家老の家の息子の波多野憲、父親は下条正巳で母は細川ちかこと民芸勢で、女学校卒業後はすぐに波多野と結婚する段取りになっている。没落した下条の家は、島田の金が目当て、島田は城代家老の名が欲しかった政略結婚なのだ。
もちろん、一目見て舟木と松原は恋しあい、松原の兄で小説家の小高雄二は何とか二人を一緒にさせたいと、舟木の上京の夜に松原と駆け落ちさせようとする。だが、島田が警察に手を廻していて、小高も舟木も検束されてしまう。どちらもやや社会主義的な傾向を持っていたからなのだ。
松原は、両親と共に大阪に連れられて行き、花嫁衣裳を選ぶなどする。
やっとのことで舟木が警察から釈放された時、屋敷から松原の花嫁の人力車が出るところだった。
メロだラマには、悪役が必須で、それも島田、細川、波多野、さらに細川の家の小姑の中曾根公子という女優らが、みな典型的な悪役ぶりで上手いので、二人の悲劇がよく引き立つ。
ニシンの不漁から島田の会社は破産し、船が沈んで死んでしまい、母の風見章子も火事で死んでしまう。下条の家から離縁された松原は、なぜか失明し、焼けた屋敷のお蔵に一人で住んでいる。
東京の帝国大学を出て建築家になるべくドイツ留学を決めていた舟木は、留学を止めて松原智恵子を目の手術のために東京に連れて行こうと決める。
だが、屋敷に来た時、心臓の発作で死んでしまう。
海が見える丘の上に二人の名、雄作と若菜が刻まれた石碑に『夕笛』が流れて終わり。
脚本が大映出身の星川清司なので、くさい芝居が上手く、それを西河の松竹的な風俗の描き方のうまさが混合している。
目が悪くなるとホウ酸水で冷やすのや、時計型のオルゴール、松原の花嫁衣裳の豪華さ、家で猫を愛玩しチェスをやっている細川と中曽根、女遊び以外何もしていないらしい波多野など、当時の風俗をよく入れていると思う。
チャンネルNECO