『進め独立旗』

多分、日本映画史上、これほど珍奇な映画はないだろう。
何しろ、長谷川一夫、轟夕起子、森雅之、三津田健等がインド人を演じるのだから、信じがたい。昭和18年の戦意高揚映画である。
斉藤達雄も、イギリス大使館書記官を演じる。
でも、全員日本語をしゃべっているのだ。
これで、見た人はおかしいと思わなかったのだろうか。
もっとも、つい最近まで、日本映画ではよくあり、熊井啓監督の『天平の甍』でも、あの鑑真和上が、日本語で仏教を講義するのだから、凄い。
そこには、文化的差異など存在しなかったのだろうか。

昭和14年ごろの日本国内で、反英国のインド人グループがあり、その中心が、某藩国の王子長谷川一夫である。
彼は、親インドの日本人の家に匿われていたが、英国大使館に見つかり、大使館内に幽閉されてしまい、最後は自殺する。
結論としては、非暴力は無意味であり、ついに昭和16年12月8日、日本はアジア解放のために立つ!
叩け!
横暴なる英国人、アジア人は立ち上がれ!
となる。

映画史的に言えば、珍品中の珍品だが、意外にさまになっているのがおかしい。
特に、サリー姿の轟夕起子は、インド人そっくりに見える。
彼女がリーダーで、「バンディ・マサラム」の大合唱。
音楽は、黒澤明の『姿三四郎』でも有名な鈴木静一で、結構インド的である。
監督は、なんと衣笠貞之助。
戦時中も戦争協力映画をほとんど作らなかった衣笠の珍しい戦意高揚映画である。
横浜市中央図書館AVコーナー

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