三木のり平の灰神楽三太郎シリーズの3本目で、映画化最後の作品、原作は正岡容、脚本は小野田勇らだが、永六輔の名もあり、監督は青柳信雄。
灰神楽三太郎シリーズは、前にも放映されたので見たが、これが一番面白かった。理由は、永六輔のセンスだと思う。
清水の次郎長一家の三下の三太郎が、無実の罪を着せられ、それを森川信を始め、中田康子、安西郷子らの助けで無事無実であることが晴らされ、悪人は同心の伊藤久哉であることがわかるもの。
筋は単純だが、三木のり平、森川信らがうまいので大変面白く、また浪花節の相模太郎が狂言回しだが、ときどきチャチを入れたりするのが面白く、これは永六輔のセンスだと思う。
監督の青柳信雄は、新劇界から映画界入りした人で、当時ではインテリで、黒澤明とも大変仲が良かった。
彼は、あまり知られていないが、戦前から東宝では結構大きな存在で、東宝ストの後、分裂して新東宝ができる時にも、渡辺邦男らと共に大きな役割を果たした。
市川崑は、青柳の家に居候していた時代もあるそうだ。
青柳は、その新東宝でも作品を作っているが、東宝が再建されると戻って、「落語シリーズ」など、娯楽映画の早撮り監督の一人として活躍する。
1960年代には、東宝を辞めて、CALの設立に参加するが、それはテレビの『水戸黄門』を作る会社であるように、彼は非常に機を見るに敏な人だった。
彼の息子が、青柳哲郎で、東宝を経由して米国で働いていた。
だが黒澤明が、黒澤プロダクションで、東宝と手を切り、海外映画会社との提携に踏み切るとき、黒澤にアメリカから呼び戻されて、黒澤プロの取締役になる。
最初の合作映画『暴走機関車』は、途中で中止になるが、次の『トラ・トラ・トラ!』でも彼は製作を担当し、この時の不手際から、黒澤明の監督解任騒動の基になる。
この時、黒澤明は、「確かに哲郎は悪い。だが、彼に向かって拳銃を発射すると、地球をぐるっと廻って俺の頭に当たる」と彼を庇った。
詳しくは、拙書『黒澤明の十字架』(現代企画室)をお読みいただければ誠に幸いです。
さらに『トラ・トラ・トラ!』事件の詳細を知りたい方は、田草川弘さんの『黒澤VSハリウッド』(文藝春秋)をお読みください。
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