『十二月』

民芸の12月公演が小山祐士の処女作『十二月』、演出は高橋清祐、主演は奈良岡朋子と梅野泰靖。
民芸では、宇野重吉の演出で1982年に上演されているが、初演の主演は文学座の創設者の一人の田村秋子で、彼女に当てて書いたことがわかる。言わば文学座の杉村春子の持ち役の役柄だが、今回が3回目の上演だそうだ。前の民芸上演での主演女優は、死んだ水原英子。

昭和5年頃の不況時代の東京本郷4丁目の素人下宿の人間模様。言ってみれば、日本版『どん底』である。
工場のストを指導して逮捕される大学生と彼と結婚して田舎に行く女中の日色ともゑ、梅野の親戚の画家と不倫関係を続けている有閑マダムの樫山文枝、地方の電力会社の工場建設に行く若い会社員など、様々な人間が交差する。
そして、最後は弟竹内照夫の結婚のため、下宿を売り払って再起する梅野夫婦の新生活で終わる。
そこには、号外の鐘の音が聞こえてくる。これは多分、太平洋戦争のことを暗示しているのだろうが、本当は12月8日の開戦は朝であり、夜号外の鐘が響くのはおかしいのだが。

さすがに民芸で、すべて表現のリアリズムはすごいが、最後の結末には疑問があった。
そこでは、すべてが中途半端で解決がないのである。
勿論、成瀬巳喜男の映画のように結末がなくても良い。
なぜなら人生に結末はないのだから、本当のリアリズムにエンドマークはない。
だが、この小山祐士の劇に、そうした意図はあったのだろうか。
三越劇場

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