傑作と凡作 『船方さんよ』と『お富さん』

久しぶりに行った神保町シアターで、2本見る。
勝新主演の『お富さん』は、歌舞伎の「源氏店 げんやだな」をほとんど無視した愚作だったが、三波春夫の『船方さんよ』は、脚本が柳沢類寿、監督小杉勇、勿論音楽は小杉太一郎で、非常によくできた傑作だった。
これだから映画は、見てみないと本当にわからない。

話は、小名浜港に1年間外港に出ていた漁船の船員待田京介が戻ってきて、漁協で働く稲垣美穂子に求婚するが、彼女は、待田が養育された網元の家小杉勇の長男宍戸錠と婚約したところだった。待田は、孤児だったのを網元の小杉が子供同然にして育ててくれたのである。
この夜は、祭りの日で、稲垣の兄で船大工の三波春夫は祭りの踊りで歌うが、この踊り手が1,000人以上いるすごいロケ。
この夜に、待田の実の母で、子と夫を捨てた女の山岡久乃が小名浜に来ているのだが、待田と会っていないのが、次の伏線になる。
後に蔵原惟繕作品で素晴らしい映像を作り出す、間宮義雄の画面が非常に良い。

傷心の待田は、東京に出て、銀座周辺のチンピラになっている。
待田のチンピラ・グループの柳瀬志郎や青木富男らは、銀座のパチンコ屋で暴れ、待田はケガをして、あるバーに運び込まれる。
ここのパチンコ店の台は、四角く囲んだ台の中に人がいて玉を出す珍しい構造、杉山一夫さんに見せたくなった。
そこには、マダムの山岡久乃と待田を追って東京に来た稲垣美穂子がいるのだが、待田と山岡は小名浜で会っていないので、スレ違いになる。
この辺のすれ違いの上手さは、まさに松竹大船の柳澤である。

1年後、ある漁船が小名浜に戻ってくるが、それには真面目に更生した待田が乗っていて、東京で知り合った堀恭子との間には、1歳の子供が出来ていた。
それを、宍戸錠、稲垣美穂子、山岡久乃、待田京介、堀恭子、そして三波春夫の全員が祝福して終わり。
小杉勇は、言うまでもなく大名優だが、監督としても大したものだったことが、よくわかった。
神保町シアター

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